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第181話
「何だと…?」
ふつふつと煮えたぎるような怒りを抑えた声。
それを意に介さず、千歳は鼻で笑う。
俺は、衛宮くんの反応がマンガのザコキャラみたいだなぁ、なんて失礼なことを思っていた。
「千歳、あんまり煽ってやんなよ」
優しく窘めるのは百の声。
何でそんなに優しいかって、百の視線の先には俺がいるから。視線だけじゃなく、その指で俺の髪をさらりと梳く。その手付きすら甘やかで。
それが衛宮くんの怒りを更に煽るのも、そんなことは承知の上でしれっとやってのける。
「自分の立場を理解してないから教えてやろうという親切心だ」
「残念ながらその親切心 伝わってねぇと思うなー」
「…おい、藤棚。相瀬に触ってんじゃねぇ」
「は? 誰の許可得て百に命令してんの? 不快の極みなんだけど。百は俺のなんだから、触っていいの。百に命令していいのも俺だけなんだから、無駄に偉そうな腹立つその口閉じて」
「蜜も落ち着こうな?」
髪を撫でた手は、そのまま頬に下りてくる。
千歳も俺の髪に手を伸ばすから、衛宮くんの顔は益々怒りで歪んでいた。
「…女王様だか何だか知らねぇけど、機嫌とられねぇと生きて行かれねーのかよ。ただの甘ったれじゃねーか」
「それが? 俺、衛宮くんに甘えなくても生きて行かれるけど」
だって百と千歳が甘やかしてくれるもん。だから他なんてどうでもいい。
「付き合ってるわけでもねーやつにベタベタ触らせるとか、ビッチかよ」
うわ、ムカつく。
「あぁ、ごめん。衛宮、付き合ってたのに蜜に触ることすら許されなかったもんなぁ」
百が申し訳なさそうに、でもたっぷり同情と優越感を滲ませて言うから、俺は思わず吹き出しそうになった。よく堪えた。
「てめ、っ」
「付き合ってた相手にも触らせなかったんなら全然ビッチじゃないじゃん。あいつマジクソ失礼」
「クソの極み」
ぼそっと聞こえたクラスメートの声。
俺はそれにも笑いそうになった。クソの極みって何。
「人のことビッチ呼ばわりする男なんかいらないよね。どう思う? 千歳」
「生ゴミと一緒に捨てればいいんじゃないか?」
千歳ってば、なんて清々しい笑顔。
俺は脚を組んで腕も組んで、ツン、と顎も上げて偉そうに衛宮くんを見た。
「自分が優位に立ちたいなら相手選びなね。俺はそんな男いらないから。二度と顔見せに来ないでよね」
「おい、何勝手に…」
「目障り。さっさと散って」
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