悪い顔してても男前は男前だし、美形は美形だよね。ちっとも損なわれない。 「というか、今日女王様はどうやって登校したんだ？ 靴は？」 「千歳に抱っこで運んでもらったけど？ 靴は弁償してもらいたい気分だよね」 「…弁償か…。弁償な…」 千歳が何やら呟いている。 「カツアゲしてくる？」 百が純粋な目で俺を見た。 「藤棚とカツアゲは対極にあるような言葉だな」 「藤くん絶対カツアゲ必要ないもんねぇ～」 資産家のお家だし社長令息だしね。 「百のカツアゲは見てみたいけど…」 「上品にカツアゲしてきそうだな！」 「上品なカツアゲとは？」 「百は絶対、お金なくて困ってるんだよね～、とは言わないよ」 「お金あって困ってるんだよね～、は言いそうだな」 「蜜はともかく千歳の俺のイメージ」 もはやカツアゲではない。それ自慢。 「まぁでも、あれ俺がプレゼントした12万の靴だったんだよな」 「「「「「え…ッ」」」」」 クラスの中から、息を呑むような声が上がった。 「――とか言えばよくない？」 「えっ、藤くん、冗談…だったんだよねぇ…？」 「えっ、ほんとに12万の靴…？」 「マジで…？」 みんな…。 「そんなわけないじゃん。あれイ●ンで2000円くらいで買えるような靴だよ。12万の靴なんて…貰ったとしても怖くて履けるわけないでしょ」 「一瞬すごい心臓に悪かったよぉ～」 「まぁ、百が言うと真実味あるからな」 ほんとにね。涼しい顔して12万の靴履いてそうだもん。 「犯人の反応見てみたいから、今のもっかいやってくれる？」 あ、でも。 「犯人が百と同じようなお金持ちだったら意味ないかぁ…」 「金持ちだったらほんとに12万の靴くれるかもな」 「それ売ったらいくらになる？ そのお金で新しい靴買えるかなぁ」 「…蜜」 あ、だめ？ 千歳が渋い顔してる。 だって。欲しくもないもの貰っても困るじゃん。だったら売って欲しいの買った方がいいじゃん。元々他人のお金だし。いや、そもそも貰ってはないけどさ。 「昼休み食堂行くとき７組の前通ってくか。茶番しながら」 「さんせーい！」 「僕も見たいから一緒に行くぅ～！」 「じゃあ俺も」 「あ、俺も」 「俺も俺も」 みんなこういう悪ふざけ好きだよね。俺も好きだけど。 でもさぁ…。 「クラス全員で茶番しながら７組の前通ってくの？」 「女王様の愛され具合が分かっていいじゃぁん～」 ま、いいならいいけど。