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第216話
――なんて話をしてたから、すっかり忘れていた被害者の学生証。
靴の話題にもってかれてた。
思い出したのは、教室移動中にばったり会ったみたいだから。
みたいってのは、俺は昨日の2人の顔を知らないからね。見てないし。
ただ、茅ヶ崎を絶望と恐怖の混じったようなギョッとした顔で見てる2人組がいたから。
その2人を見た千歳が、「あ。忘れてた」って呟いたから。多分そうなんじゃないかな、って。
「ちょうどいいから今返しちゃえば?」
千歳に言えば、それもそうだな、って頷いた。
俺は視線を2人に向ける。
なるほど。あの2人が昨日の被害者。っていうか、衛宮くんに頼まれて(?)茅ヶ崎襲った人たちか。
茅ヶ崎が俺の隣でニヤニヤしてる。
「これ。昨日 茅ヶ崎が奪ってきた学生証な」
千歳が2人に近づいて、ポケットから2枚の学生証を取り出した。
「あっ」
「それ…!」
やっぱ探してたんだ。そりゃそうだよね。
手を出した2人に、千歳がサッと学生証を引っ込めた。そうして、ひどく冷たい目で2人を見る。
「言っておくが、二度とあんなことするなよ」
「っ、はい…っ」
「分かってます…!」
「僕はしてくれてもいいけどぉ~? 遊び足りないしぃ~ふふっ」
「「…っ…」」
2人が無言で体を震わせた。
千歳曰く、『地獄』だったもんなぁ。そりゃあ、遊び足りないって言われたら、ねぇ。
「…これは返しておく。大事なものだからな」
千歳が息をついて、2人に学生証を手渡した。
2人はそれを受け取って、茅ヶ崎の様子を恐る恐る伺いながら、素早く去っていった。よっぽどひどいトラウマを植え付けられたみたいだね。可哀想に。
「蜜」
ぼんやりと2人の背中を見ていたら、百に呼ばれた。
「なぁに?」
顔を向ければ、額にキスが降ってきた。
「なに? どうしたの?」
「んー? 気分で」
百の指が耳をくすぐる。
「キスしたい気分? もっとしてもいいよ? 千歳も」
「え、僕はぁ~?」
「茅ヶ崎は彼氏じゃないもん」
「振られたぁ~」
千歳が笑って頬にキスをした。ふたりに腰を抱かれて、両側からこめかみや頬にキスが落とされる。
何で急に廊下の真ん中でいっぱいキスしてくれるんだろ。嬉しいからいいんだけど。
「ん、ん…っ」
唇にも交互にキスされて、すごく気分がいい。
「キスする時に洩れる女王様の声ってエッチだよねぇ~」
まぁそんな茅ヶ崎の戯れ言も聞き流せるくらいには気分がいいよ。
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