217 / 240
第217話
そんな風にちょっとお花畑になってた俺には、周りなんかどーでもよくて。だから全然気づいてなかったの。
千歳と百が顔を見合わせて にんまり笑っていたことも。
ブチギレそうな顔で誰かさんがこっちを見てたことも。
「――それでは各々がた、準備はよろしいか?」
お昼のチャイムが鳴って先生が教室を出て行った途端、委員長が素早く立ち上がって皆を振り返った。
ほんとにこういうおふざけ好きだよね。俺も好きだよ。
「「「「「おー!」」」」」
そんで皆も合戦前みたいに拳突き上げてノリノリだよね。
ただ茶番をしに行くだけなんだけど。
告白してくれたらしいけど、俺はその花なんとかくんの顔を知らない。見れば思い出すかも知れないけど…どうかな。
そんな態度だから逆恨み(?)されるんだよね、知ってる。知ってるけどしょーがないじゃん。興味ないのは覚えられないもん。
多分だけど、香月さんと付き合ってた頃のことなんじゃないかなぁ。百と千歳ほどじゃないけど香月さんのことも好きだったし、そしたらきっと、誰から告白されたかなんて覚えてないだろうな。
「女王様、行こ~」
鼻歌うたい出しそうなくらいご機嫌な茅ヶ崎に声をかけられて腰を上げる。
百がさりげなく腕を出してくれたので、遠慮なくそこに掴まった。こういうのがさらっとできちゃうのが百だよね!
「っていうかさ、今日その花なんとかくんって学校来てるの? いなかったら茶番も意味なくない?」
俺が言うと、委員長がメガネのブリッジを押し上げながら不敵に笑った。
「その辺は抜かりない。確認済みだ」
この人 茶番に命かけてるのかな。
「…ま、いっか。お腹空いたから行こ」
クラス全員で廊下に出て、とりあえず7組に向かって前進。学食行くには遠回りなんだけどね。
クラス全員でぞろぞろ歩いてるから、何だ何だ、って感じで人の波が割れていく。
「女王陛下御一行様してると勝手に道が開けるから楽だよねぇ~」
「ふつーはクラス全員で列をなして歩かないもん。変な集団だと思われてるんじゃないの?」
「先生たちにはお祭り集団って言われてるのは知ってるぅ~」
「うわ、最悪」
でも俺たちちょっとのことでも楽しもうとするからなぁ…。今まさにしてるみたいに。
駄弁りながら歩いていれば、7組はもうすぐそこ。
「ねぇ、そぉ言えばぁ~。女王様、昨日は災難だったねぇ~、靴ぅ」
開けっぱなしの教室のドアに差し掛かった時、茅ヶ崎がさりげなくわざとらしい声を出した。
ともだちにシェアしよう!