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第225話
お風呂から上がると、そこには千歳だけがいた。
「あれ、百は?」
部屋の主がいない。
「呼び出されて行ったぞ」
「えー。俺のスキンケアは誰がしてくれるの」
「すまん。俺は出来ない」
スキンケアセットは置いてあるから、多分百はやってくれるつもりでいたんだろうけど。
仕方なくコットンに化粧水を染み込ませて顔にのせる。自分でやるしかないじゃんね。
マッサージしながらボディクリーム塗ってもらおうと思ってたのに。
「こんな可愛い彼氏放ったらかしてくなんて…」
ぷうっ、と膨れると、千歳が小さく笑う。
千歳は俺の頭に手を伸ばすと、バスタオルでわしわしと髪を拭いた。
「先に髪乾かしてような」
「うん」
ヘアオイルを手に取って、俺の髪に馴染ませる。全開になったおでこに、千歳は優しくキスをした。
「なぁに? どうしたの?」
千歳の膝に手を掛けて顔を覗き込む。ちょっとにまにましてしまうのは仕方ない。
「可愛いおでこでつい」
「ふ~ん」
顔を近づければそのまま唇に触れられて、しっかり重なった。
「可愛いのはおでこだけ?」
「まさか。全部可愛いよ」
「全部?」
「そうだな」
「乳首も可愛かった?」
「可愛かったけど蜜の反応の方が可愛かったな」
「ふぅん。もうちょっとえっちに触ってもよかったのに」
千歳がちょっと目を見張って俺を見た。
「男も乳首気持ちいいって茅ヶ崎が言ってたじゃん」
「蜜がいいなら次はそうする」
「うん」
カチッとドライヤーのスイッチが入って、千歳の大きな手が丁寧に俺の髪を梳いていく。
ゆったり流れる手を感じながら戯れにキスをして、千歳に寄りかかった。
いつからこんな風に甘えるの好きになったんだっけな。ちっちゃい頃からそうだっけ?
中学の時にはもうワガママだった気がするなぁ…俺。
そう考えると、百も千歳も、よくこんなワガママな俺を見捨てないで一緒にいてくれたよね…。
「よし。蜜、乾いたぞ」
「うん」
でも俺は千歳に寄りかかったまま。
「…百遅いね」
「すぐ戻るとは言ってたけどな…」
きっとそのつもりで俺のスキンケアセットだって用意してたんだろうし。俺がお風呂から上がるまでに戻るつもりでいたんだよね…。
2人で顔を見合わせる。
何か嫌なこと起こってたりしないよね…。
「連絡してみるか」
千歳がポケットからスマホを取り出した。
LINEを開いて百に電話を掛けようとした時、不意に玄関の方からガチャリと鍵の開く音が聞こえた。
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