226 / 240

第226話

「急に呼んで悪かった。ありがとな、ゆーくん」 あ、百帰ってきた。 と思ったら誰かと一緒で、しかも親しげに『ゆーくん』って呼んでる。ゆーくんって誰よ…、ってモヤモヤしてしまう俺。 そりゃ、百は俺と違って人当たりもいいし、友達だってできるの早かったけど…。 「いえ、約束ですし。気にしないでください。それじゃ、また明日」 「うん、またな」 パタン、とドアの閉まる音。それからガチャリと鍵のかかる音がした。 …約束、ってことは…あのガタイのいい人かな…? 「遅かったな。蜜が待ってるぞ」 千歳が、玄関に続くドアを開けて声をかけた。 「あー、ごめん」 「ごめんで許してくれるかな…」 「えっ、嘘。そんな感じ?」 そんな感じじゃないけど、百に機嫌取られるのは嫌いじゃない。っていうか、好き。 千歳と一緒に部屋に入って来た百に、わざとプン!と膨れてみせる。 「ごめん。すぐ戻るつもりだったんだって」 苦笑いで俺に手を伸ばす百からプイッと顔を背けた。千歳が乾かしてくれた髪に、百の指が触れる。 そのまま優しく梳きながら、百は膨れた俺の頬に唇で触れた。 「蜜、こっち向いて」 しっとり甘い声に、俺は弱い。 ただでさえ怒ってないのに怒ってる振りしてるから。 「…こんな可愛い俺を放っといたらダメでしょ」 「そうだな」 「ごめんねのちゅーは?」 「ごめん」 唇を重ねて、「機嫌なおった?」って聞く百に、「なおしてあげる」って偉そうに言ってしまう。 「化粧水自分でやったけどもっかいちゃんとやって。あと、脚のマッサージも」 「はーい」 その時、百から嗅ぎ慣れない甘い匂いがした。百は香水つけないから、変に甘い匂いはしない。つけるとしてもこんな下品な匂いのは選ばない。 「…誰の匂い?」 「え。あ、匂い移ってる?」 腕を持ち上げてくんくんする百。 「俺と千歳以外の変な匂いつけてこないで」 「そもそも何があったんだ?」 百に変な匂いがついてるのが嫌でパーカーを剥ぎ取る俺を尻目に、千歳が尋ねた。 百は俺にパーカーを脱がされながら口を開く。 「蜜の部屋の前に不審者がいる、って委員長から通報入ってさー」 「「え。」」 そう言えば香月さんと付き合ってた時も不審者来たなぁ。あの人どうなったんだろ。別にどうでもいいけど。 「衛宮関連の可能性も0じゃなかったし、念のためゆーくんに頼んで2人で様子見に行ってみたんだよ」

ともだちにシェアしよう!