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第226話
「急に呼んで悪かった。ありがとな、ゆーくん」
あ、百帰ってきた。
と思ったら誰かと一緒で、しかも親しげに『ゆーくん』って呼んでる。ゆーくんって誰よ…、ってモヤモヤしてしまう俺。
そりゃ、百は俺と違って人当たりもいいし、友達だってできるの早かったけど…。
「いえ、約束ですし。気にしないでください。それじゃ、また明日」
「うん、またな」
パタン、とドアの閉まる音。それからガチャリと鍵のかかる音がした。
…約束、ってことは…あのガタイのいい人かな…?
「遅かったな。蜜が待ってるぞ」
千歳が、玄関に続くドアを開けて声をかけた。
「あー、ごめん」
「ごめんで許してくれるかな…」
「えっ、嘘。そんな感じ?」
そんな感じじゃないけど、百に機嫌取られるのは嫌いじゃない。っていうか、好き。
千歳と一緒に部屋に入って来た百に、わざとプン!と膨れてみせる。
「ごめん。すぐ戻るつもりだったんだって」
苦笑いで俺に手を伸ばす百からプイッと顔を背けた。千歳が乾かしてくれた髪に、百の指が触れる。
そのまま優しく梳きながら、百は膨れた俺の頬に唇で触れた。
「蜜、こっち向いて」
しっとり甘い声に、俺は弱い。
ただでさえ怒ってないのに怒ってる振りしてるから。
「…こんな可愛い俺を放っといたらダメでしょ」
「そうだな」
「ごめんねのちゅーは?」
「ごめん」
唇を重ねて、「機嫌なおった?」って聞く百に、「なおしてあげる」って偉そうに言ってしまう。
「化粧水自分でやったけどもっかいちゃんとやって。あと、脚のマッサージも」
「はーい」
その時、百から嗅ぎ慣れない甘い匂いがした。百は香水つけないから、変に甘い匂いはしない。つけるとしてもこんな下品な匂いのは選ばない。
「…誰の匂い?」
「え。あ、匂い移ってる?」
腕を持ち上げてくんくんする百。
「俺と千歳以外の変な匂いつけてこないで」
「そもそも何があったんだ?」
百に変な匂いがついてるのが嫌でパーカーを剥ぎ取る俺を尻目に、千歳が尋ねた。
百は俺にパーカーを脱がされながら口を開く。
「蜜の部屋の前に不審者がいる、って委員長から通報入ってさー」
「「え。」」
そう言えば香月さんと付き合ってた時も不審者来たなぁ。あの人どうなったんだろ。別にどうでもいいけど。
「衛宮関連の可能性も0じゃなかったし、念のためゆーくんに頼んで2人で様子見に行ってみたんだよ」
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