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第227話
「言ってくれたら一緒に行ったのに」
「千歳も来ちゃったら蜜がひとりになるじゃん。それは避けないと、と思って」
「それは確かにそうなんだが…」
百ひとりだけ危険な目に遭うのが嫌なんだよね、千歳は。
分かるよ、何も出来ない俺だってそう思うもん。
「あ、そうそう。それで蜜2日くらい自分の部屋戻れなくなってるから」
「はぁ!? 何で?」
戻れなくてもそれほど困りはしない…かもしれないけど、何で?
「その不審者な、蜜の部屋の鍵穴をパテで埋めてた」
「は?」
それ犯罪。許さん。
「で、ゆーくんと委員長と捕まえて、寮監さんに引き渡してきた。今日はもう夜だから、鍵交換は明日 業者に依頼するって」
「そいつは衛宮と関係あったのか?」
「うん、まぁね」
千歳の問いに頷きながら、百はポケットからたたまれた紙を取り出した。
「また衛宮に頼まれた系?」
「とはちょっと違う。衛宮の元彼? みたいな」
「元彼…いたんだ」
「別れてたのか」
「うん、蜜と付き合い出してからな」
「は?」
え、待って待って。付き合い『出して』から?
何? 俺って最初は二股かけられてたってこと?
え。殴る。
「衛宮が選ぶだけあって、っつーか、そこそこ可愛い顔して…痛い、蜜 ほっぺたつねるのやめて」
「俺以外の男を何褒めてんの」
「そこそこ可愛いってだけじゃん。蜜が一番可愛い」
「当たり前でしょ! そうじゃなかったら許さない」
「気の強いとこも超絶ワガママなとこも全部可愛い。好きだよ」
「……ちょっと、だけ、許す」
俺たちのやり取りに、千歳が小さく吹き出した。どーせ俺のことちょろいと思ってるんでしょ! 俺がちょろいのは千歳と百にだけなんだから!
「それで、その紙は?」
百が取り出した紙を千歳が指差した。
「あー、これね。念書。まぁ効果なんてほんとはないんだけど、何かあった時の盾にはなるかなー、って」
そう言いながら百が開いたその紙には、『私は今後一切 相瀬蜜に近寄らないし、その私物、部屋の備品にも一切手を触れません。約束します。 平 茉純』と書いてあった。律儀に拇印まで捺してある。
っていうかさ。
「…百、この字すごいブレッブレなの何で?」
まるで利き手とは逆の手で書いたかのような、ブレッブレの字。
「え? 手ぇ震えてたからじゃん?」
「「……」」
何で震えてたかは聞かない方がいいかな。
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