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第236話
「歯型つけていいとは言ってないんですけど」
「すまん。つい興奮して」
決して事後じゃないのに事後みたいな会話してる。
百の首筋には、――昼休みになった今でも――俺がつけたやつと千歳がつけた歯型つきのがくっきり浮かんでいる。千歳のがあんまりにもくっきりだったので、俺ももう1回吸わせてもらったし、何なら千歳にももう1回吸い付いといた。
ついでに俺も、ふたりにもう1回吸われた。
朝から何やってんだって? いいの。お互い愛情確かめあってただけだから。
まぁおかけで3人ともキスマ晒すことになったから、いい具合に注目度も上がったっぽい。千歳や百のファンも釣れちゃうのはうざいけどー。
こう、じりじり焦げ付きそうな視線を感じるので、多分上手くいってる。はず。
あとは誘き寄せたとこをどうやって叩くか、なんだけど。
そんなに単純じゃないかな。どうかな。まだエサが足りないかな。
「1日で釣れると思う?」
俺が問いかけると、ふたりはちょっと顔を見合わせた。
「まぁ、百の首が熱烈だから釣れそうな気はしないでもない」
「うん、でもそれ千歳のだよね?」
俺が言うと、千歳はそっと視線をそらした。
「どっちがつけたかなんて向こうは知らないし、いけんじゃん?」
スマホをぽちぽちしながら百が言う。
「それはそうかも知れないけど。確実に仕留めたいじゃん」
「最終的に息の根止めれば良いんだからさ、焦ることなくね?」
「ワードが全部物騒だな」
それは仕方ないね!
「ま、煽れてはいると思うけど」
百はそう言ってスマホから顔を上げると、俺を見た。
「1日で動かすにはちょっと足りないかな」
「やっぱり?」
「とりあえずこうしてれば近いうちにアクションあると思うけどな」
「そっかー」
ところで俺は今、千歳の膝に乗っているので、今日もベタベタイチャイチャ作戦は継続。存分に甘えられるのはいいんだけどさ。俺には得しかないし。
百がちらっと周りに視線を巡らせる。それから俺に視線を戻して口を開いた。
「蜜さぁ」
「なに?」
「昨日、どうだった?」
昨日?
「風呂」
ピンと来てない俺に気付いて、百が小さく言葉を足す。
「気持ち良かった、よ」
ちょっと恥ずかしくなってしまって視線を落とす。顔熱い。
「今日もする?」
「ん、」
どうしよう、って思ったのはほんとに一瞬で、気付いたら首を縦に振っていた。俺の正直者。
「策士だな」
上から千歳の笑いを含んだ密やかな声が落ちてくる。
どゆこと? と思って千歳を振り返ると、「昨日ほんとにヤッたみたいに聞こえる」って言って笑っていた。
なるほどね。
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