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 周りのひそひそ話に耐えながら長蛇の列に並び、無事グッズを買った俺たちは、その後も順調に各フロアを見て回り、無事帰還した。  建物の外に脱出すると、思わずはあっとため息が漏れた。 「すごい空間でしたね」 「うん。良いものがたくさん見られてよかった」  時刻は12:30。ちょっとお腹がすいている。 「お昼ですね。どこかお店入りますか?」 「うん、そうしようか。タミくん、何が好き?」 「割と何でもですけど、いまの気分で言うと、ラーメン食べたいですね」 「ああ、せっかく池袋だもんね。どこか有名なところに行ってみる?」  ラーメン激戦区・池袋。男の戦いラウンド2か。  春馬さんがすいすいと調べてくれて、豚骨の有名店に行くことにした。  道すがら、腐男子トークに花を咲かせる。 「春馬さんは何きっかけでBLにハマったんですか?」 「元々はただの漫画好きで、少女漫画に行って、好きな作家さんがBLも書いてたから試しに読んでみたのがきっかけ」 「え、誰ですか?」 「宮野あいり先生」 「あー、なるほど。体の線が細い感じとか、いまの春馬さんの趣味に通じるものがありますね」  毎日電話で話してるけど、やっぱり対面で話すのは違う。  好きな人と話せてるのもうれしいけど、普通に、他人に理解されないこの趣味をのびのび語れるのが最高だ。  そして、この流れなら聞ける気がする。  春馬さんは、リアルな男同士の恋愛についてどう思うか。  世の腐男子が必ず同性愛者かと言ったらそんなわけはなくて、というか俺自身も別に、元々はゲイでも何でもないし。  だから春馬さんも、『漫画のBLは好きだけど、リアルでは女の子しか好きじゃない』という可能性は十分あるので……なんというか、失恋するなら早めの方がいいかという気もしている。 「でも不思議ですよね。なんでNLよりBLの方が萌えるんだろって、いつも思うんですよ」 「やっぱり根本的に、障害のある恋愛話というのは魅力的なんじゃない? 題材として」  そう、障害は萌えを生むのだ。  だから、男で先生という二重苦を抱えた俺は、春馬さんにとっても萌えてます。  辛い。 「実際はどうですか? リアルに同性愛」 「ああ」  春馬さんは正面を向いたまま、ぽつっと言った。 「僕は子供の頃から男性しか好きになったことがないよ」 「え……っ」  マジか。  え!? 勝機あり……!?  まさかの展開に言葉を失っていたら、春馬さんはちょこっと俺を見下ろして、頬をかきながら言った。 「ごめんごめん、びっくりさせたね」 「え! いや、びっくりとかじゃなくて……その、俺も男の人好きになったりするんで、自分だけじゃないのかって」  マスクしててよかったー……絶対顔が赤い。  春馬さんは、意外そうな感じで尋ねてきた。 「へえ。じゃあ、自分がそういうタイプだからBLに興味が出たの?」 「いや、BLは普通になんかの拍子でハマっちゃっただけです。でもそれで偏見がなくなったのか、最近男の人も好きになったりとか」  大嘘で申し訳ない。もし付き合える日が来たら謝ろう。  謝れる日がくることを願いつつ半歩ほど春馬さんの方に寄ってみたら、特に気に留めなかったようで、避けられる感じもなく。  いけるのでは? と、期待に夢を膨らませていたら、春馬さんは遠くを眺めたまま言った。 「でも実際は、漫画みたくうまくいかないよね。僕は消極的な人間だし、けっこうもう、人生あきらめちゃってる」 「あきらめるって?」 「パートナーを作るとかね。エネルギーを使いそうなことはしたくない」  そして、目だけでうっすら笑って言った。 「タミくんは若いからね。未来がある。がんばって」

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