15 / 69

2-8

 お風呂の中で何度もシミュレーションして、景気付けのガリガリアイスを食べて、部屋に戻った。  LINEを送る。すぐに電話がかかってきた。 「もしも」 『高野くんっ、あの、帰ってきてからツイッター開いた?』  聞いたこともないような慌てた声。 「え、あ、はい。普通に見てましたけど」 『じゃあ、アカリスさんの会話……見ちゃった?』 「…………はい」  気っまず!  何? 春馬さん、俺への隠れたメッセージとかじゃなくて、普通に俺が見てるって忘れて書いてたの?  俺の事前シミュレーションは、一瞬で無駄に終わったらしい。  春馬さんは、とんでもなく恥ずかしそうな声で言った。 『すごいごめん』 「俺、デートみたいなはしゃぎ方はしてました?」  笑って尋ねると、春馬さんは小さくうめいたあと、小さく「うん」と言った。 『可愛くて。でも、全然そんなんじゃないってもちろん分かってるし、比喩的な意味だからね』 「いや? 俺、デートみたいな気分でしたよ? 一緒にいて楽しい人と行きたいところに行けたら、気分よくなるに決まってるじゃないですか」  深い意味なんて何もない、というような感じを出したつもり。  でも春馬さんは、しばらく黙ったあと、声のトーンを下げて言った。 『なんかこれ、言っても言わせてもダメな話な気がする』 「何がですか?」 『ううん、気のせいならいいんだけど。いや、僕の思い上がりすぎか。ごめん、忘れて?』 「いや、」  思わず、否定の言葉を出してしまった。  そして、出てしまったものを戻すことはできない。  少し迷ったあと、小声でぼそぼそっと言った。 「たぶんそれ、思い上がりじゃないと思います。でも、お互い言っちゃダメな話っていうのも分かるんで」 『そっか』  それっきり、沈黙。  数秒経ってから、春馬さんが静かに尋ねてきた。 『……高野くん、あしたはバイト、何時に終わるの?』 「16:30に終わります」 『そのあと、少し会えないかな』 「はい。どこで待ち合わせますか?」 『新宿で。食事しながらちょっと話そう』  待ち合わせをして、電話を切る。  そして、布団をすっぽりかぶった。  やばい、完全に好きバレした。  そして春馬さんも、なんだかまんざらでもなさそう。  でも、もし仮に本当に好き同士だったとしても、春馬さんは『じゃあ付き合いましょう』とは言わない気がする。  好き同士だとはっきりしたら、『じゃあ会うのはやめよう』と言うんじゃないだろうか。  電話で済ます話じゃないから、直接、みたいな。  ……と考えるとあしたの用件はほぼ確定したようなもので、ただただ気が重い。  寝ても寝なくてもあしたは来るけど、『寝不足で酷い顔は見せたくないな』という女子みたいな理由で、無理やり寝た。

ともだちにシェアしよう!