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 春馬さんは、俺の服を脱がしながら、穏やかな声で言った。 「人間誰でも、感覚が違うでしょ? おいしいと思う食べ物も、綺麗だなと思う風景も。それと同じで、セックスで気持ちいいなと思うところも、ひとりひとり違う」 「そうなの?」  BLの知識しかないから、よく分からない。  たぶん春馬さんは、そういう俺の不安を考えて、この話をしてくれているのだと思う。 「たとえば漫画だと、受けの子はたくさん喘ぐけど、そうとは限らない。声が出る人もいるし、出ない人もいる。人それぞれ」 「他にも漫画と違うこと、ある?」  こくっとうなずく。 「漫画では受けの子は気持ちよくて涙を流すけど、それも必ずじゃない。ビクッとするとも限らない。顔だって絶対真っ赤になるわけじゃないし、胸が感じるかも人それぞれ」  俺のベルトに手をかけ、前をくつろげる。  既に完全に勃ってるけど、春馬さんはそれについて特にコメントすることはなく、話を続けた。 「それと、1番ファンタジーなのは、中かな。前立腺って、いきなり触ってもあんな風に気持ちよくならないから」 「そうなの……? なんとなく、他は気持ちよくなくても、そこだけは絶対気持ちよくなるのかと思ってた」 「ううん。前立腺で気持ちよくなるのって、コツが要るんだ。だから、ふたり同時にイクとかもね、お話の世界」  俺の服を全部脱がした春馬さんは、自分もTシャツを脱いで、ぽいっと床に投げた。 「そういうわけで、僕は、みいが漫画と違う反応をしてても、全然変に思わない。みいが気持ちいいと思うことだけしたいし、みいの言うことだけ信じる。だから、これして欲しいとか、それは嫌だとか、遠慮なく言ってね」 「うん。ありがと」  優しい。それに、なんか生物の先生っぽい。  ちょっと萌えつつ、だいぶ安心した。  春馬さんは、ほんの少し微笑んでから、眼鏡を外して、ベッドのサイドボードに置いた。  こんな、上半身裸で素顔で……やばい。  想像以上にかっこいいというか、雰囲気が大分違う。  これからされるであろうこともあいまって、なんかもう、ギャップがやばい。  春馬さんは、そっと俺の胸に顔を寄せて、乳首をちろっとなめた。 「……っ」  変な感じ。  でも、ちゅうっと吸ったり、舌の先でこねられたら、すぐに息が上がってきた。 「はぁ、……っ」 「大丈夫?」 「ん、きもちいい」  ぼーっとする。そして、ドキドキする。  春馬さんはあえて音を立てる感じで両方の乳首を刺激してきて、それだけでかなり興奮してしまった。 「は、春馬さん、あの……下も、触って欲しくて……」 「うん、いいよ」  春馬さんは目を細め、長い指で、俺の形をなぞった。 「ん、……ん」  ちょっと待って。  受けが声が出るとは限らないとか言ってたけど……これ、出すなっていう方が無理じゃない?  緩急つけてしごかれるたびに、声がひとりでに漏れる。 「あ、ぁ……っ、ん、ん……」 「気持ちいい?」 「うん、はぁ、は……、ぁ」  声が震える。勝手に、背中が反る。  春馬さんは、俺の反応を見ながら良いところをすぐに見つけて、ピンポイントで刺激してきた。 「ぁ、あ……、んっ、それきもちいい」 「可愛い。ちゃんと教えてくれて」 「はあ、はぁっ、……、ぁ……っ」  空中で手をさまよわせたら、春馬さんが捕まえてくれた。  それだけでぶわっと興奮して、もうやばい。  呼吸を乱しながらも耐えようとするけど、全然ダメ。 「あ、やだ、イッちゃいそ……」 「我慢しなくていいよ」 「ああッ、ん、はぁっ、……ぁ、ぁあっ、イッ、ぁ、もぉ、……イク……っ」  スピードをつけて擦りながら乳首をくんっと引っ張られたら、ダメだった。 「ん、イクッ、ぅあ……っ!……ぁあ…………ッ!……!…………っ、……!」  ビクビクッと体が跳ねる。  経験したことないくらい長くイッてる感覚で、ありえない量が出た。 「……はぁ、はあ……っ、はあ」  ゆっくりと呼吸を落ち着けながらぼーっと天井を見た。  待って。え?  さっき長々、春馬さんが言ってた話は?  俺、めちゃくちゃ声出るし乳首感じるし、イクときビクビク跳ねるじゃん。  いや、ひとりでしたって、こんなこと1回もなかったのに……!  戸惑いのまま春馬さんの顔を見たら、口をうっすら開けて、熱っぽい顔で俺を見下ろしていた。 「気持ちよかった?」 「うん。あの、春馬さんにも気持ちよくなってもらいたい」 「どうしようかな……」  春馬さんは、少し表情を曇らせる。 「もうひとつ、BLと違うことがあって。セックスの前にちょっと準備してもらわないとなんだけど……なんか、いきなりみいに負担かけすぎちゃう気がして」 「いいよ。何すればいいの?」  よいしょと体を起こすと、春馬さんは、すごく言いにくそうに内容を教えてくれた。  なるほど、たしかにそれはレベルが高い。  でも、春馬さんと繋がりたい気持ちが強いから、全然苦じゃない。 「うまくできなかったらごめんだけど、チャレンジしてみる」 「うん。でも、無理しないで? きょうダメでも、この先何十年もあるわけだから」  あの……素で心配しながら萌やすスタイル、やめてもらえます?

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