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力なくぺたっとしながら、俺の体を拭く春馬さんの手を握った。
誰だ、エッチ下手そうとか言った奴は。
初めてなのに、喉がはりつくくらい絶叫したし、挿れられてイッた。
そして、『同時にイクのは漫画の世界だから』と言っていたはずの春馬さんは、なんと、俺が射精し終えるタイミングまで耐えていたらしい。
もう1回言う。誰だ、エッチ下手そうとか言った奴は。
「はあ……動けない」
「大丈夫? 飲み物いる?」
ゆるく首を横に振る。
拭き終えた春馬さんは、俺の横にごろんと寝転がって、ちょっと笑って言った。
「みい、可愛かった。こんなに可愛い子が僕の腕の下で淫らな顔してて、たまらなくて」
そう言う春馬さんだって、なんというか……あの川上先生が、って感じだぞ。
ギャップで死ぬかと思った。
しかし答えることもできず、ちょこっと体を寄せて、春馬さんの鎖骨のあたりにおでこをくっつけるだけ。
春馬さんは、するっと頭をなでた。
「学校で思い出さないように気をつけないと」
「…………それね、ほんと」
授業中にズボンにテントを張るなんて、許されない。
いや待てよ、なんかそういう話あったな。
初めて家に行ってエッチして、次の日学校で思い出しちゃって、たしかそのあと……。
「教材室に押し掛けて先生に無理やり迫って、愛想尽かされるんだ」
「……? 何が?」
突然のひとりごとに、春馬さんが首をかしげる。
「『先生、仰せのままに』だよ。マジで気をつけるね」
合点がいったらしい春馬さんは、「ああ」と言って笑った。
「そんなこと言ったら、僕だってまずいでしょそれ。その次の話が」
そうだ。
攻めの先生、そのときは理性でつっぱねたけど、反省したら逆に気持ちが募っちゃって、放課後、階段の踊り場に連れ込んでキスするんだ。
そしてそのままそこでヤる。
誰か来るかもとか、言葉攻めしながら。
「そんな春馬さん、見てみたい気もするけど」
「本気で言ってる?」
「うそ」
くすくすと笑ってから、ふと、状況を客観的に眺めた。
先生の家のベッドで、裸で抱き合ってしゃべってる。
途端、謎の優越感が湧いてきて、もう2度とやきもちなんか妬かないだろうなと思った。
だーれも知らない。
あの物静かな川上先生が、こんな風にするなんて。
冷静になって考えてみると、初めてであれだけ乱れたのは、俺がBLテンプレ受けだったからじゃない。
春馬さんがめちゃくちゃ上手かったんだ。
そんなギャップ、反則だと思う。
「みい。『先生、仰せのままに』には裏メッセージがあるの。知ってる?」
「ん? 分かんない。ソフトSMのエロ供給用作品ってイメージしかないけど」
「このタイトルって、生徒が先生の言いなりになるみたいな感じでしょ? でも実は、そうじゃない。『先生が望むなら、その通りしてあげますよ』っていう、受けの生徒のメッセージだって言われてるんだ」
ストーリーを思い出してみる。
たしかに言われてみれば、一見、Sな先生の言うことに従いますという感じで生徒がM調教されていく話だけど、細かい描写を見ていくと、先生がそうしたいなら『仰せのままに』付き合ってあげますよ……っていう感じにも読める。
春馬さんはよっこらせと言って立ち上がり、スマホを持ってきた。
眼鏡をかけて、コミッコを開く。
「みいは、僕のしたいことに付き合ってくれるから優しい。岩崎くんによく似てる」
「え? いやいや、春馬さんはそもそもこんな無茶言わないし、春馬さんがしたいことを一緒にやりたいのなんて、当たり前でしょ? 好きな人で、趣味も一緒で」
春馬さんは、真顔のまますーっとスライドバーを横に移動し、指差した。
――好きな人のしたいことなら、何でもしたいよ
――大人の欲望を押し付けてもか?
――うん。だって、先生の気持ちに応えられるのは自分だけだって思えるから
「どう?」
うん、すっごく共感した。
まさかM調教漫画に自分を重ねる日が来るとは思わなかったけど。
「みいは健気で可愛いよ」
「俺も岩崎くんと同じ風に思えるかな? 春馬さんの気持ちに応えられるのは自分だけで、だから、他の女子とか先生とかは関係ないって」
「不安になったら、その度に関係ないって言ってあげる」
春馬さんは、スマホをベッドのサイドボードに置いた。
「それとね」
体をちょっと寄せて、むぎゅっと俺を抱きしめる。
「大人のキス、難しかったでしょ? 僕、キスするのが好きだから……上手にできるようにいっぱい練習しようね」
萌え死んだ。
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