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原宿駅、表参道口改札前。
ぐっちゃぐちゃの人の往来を眺めていたら、春馬さんがちょこっと片手を上げてやってきた。
「おはよう。すごい人だね」
「なんか、代々木体育館でライブあるみたいです」
人多いし、マスクしてるし、どうせ誰も見てないし。
ちょっとくらいいいかと思って、軽く手を繋いだ。
春馬さんは、一瞬きゅっと握って、離す。
あー、癒し。
明治通りに向かってしばらく歩いていると、不意に春馬さんが、ぐるっと辺りを見回して無表情のまま言った。
「人種の違う街に来たなって感じがする」
「違う街ってほどじゃないでしょ。ていうか春馬さん、渋谷区在住じゃん」
「いやいや。原宿なんて用もないし、浮くし、ひとりじゃ絶対に来ない」
そう言って一瞬口をつぐんだあと、ちょっぴり恥ずかしそうな表情で、横髪をくいくいと引っ張った。
「実は、身なりに気をつけ始めたの……みいと外に出かけるのに、恥ずかしくないようにしようと思って」
「え? 恥ずかしいとかないよ?」
「いやいや。せっかくみいが一般人に紛れてるのに、横を歩いてる人が適当だったら努力が水の泡でしょ?」
何それ、超可愛い。そんな理由?
いますぐ抱きつきたい衝動を抑え、半歩近寄る。
「別に水の泡とかは全然思わないけど。でも単純に、好きな人が自分のためになんか考えてくれてるのはうれしいよ」
素直に伝えると、春馬さんはふいっと前を向いて言った。
「趣味友のときは年の差なんてなんにも気にならなかったけど、お付き合いとなると、やっぱりちょっと考えちゃう」
「え? なんで?」
「住む世界の違いは感じるよ。僕は逆立ちしたって学生には戻れないし、みいが日々見聞きしてるものと自分の日常じゃ、キラキラ具合が違う……と思う」
意外な発言。
それに、春馬さんにしては珍しく、なんだか的外れなことを言っているように思えた。
俺の日常なんて、大それたもんじゃない。
「俺そんな、キラキラとかしてないよ? そういうのって、真性の陽キャの特権じゃんか」
「ううん、そういうことじゃなくて」
遠くを見つめたまま言う。
「高校生というもの、それ自体がキラキラしてて。生徒のそういう姿を見るのが、仕事の喜びだったりもするわけだけど」
神宮前交差点。赤信号で立ち止まる。
俺は、ちょんちょんと春馬さんの手をつついた。
「俺は、東京屈指の交差点で、内緒の恋人とこっそり手をつなぐ瞬間が、いちばんキラキラしてるけど」
春馬さんは、ちらっと見下ろした後、そっと俺の手を取った。
渡りきる間だけ、手を繋いで進む。
あったかい。心が優しくなる気がする。
ずっとこんな風にして、大人になってもおっさんになってもおじいちゃんになっても、ずっと一緒で。
周りがどうとかは関係ないし、百歩譲って春馬さんの理論が正しかったとしても、それは俺が高校生の間だけだ。
その後何十年も続くはずのふたりの付き合いを考えたら、1年ちょっとなんて、一瞬なはずだから。
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