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 家に帰り、夕食を食べながら、今度は親にアタック。 「ねえ、貯金したいんだけど。口座ってどうやって作ればいいの?」  姉がお茶を噴いた。 「ゴホッ、ちょっと統、どうしたの?」  ふたつ年上の姉・(かえで)は、見た目は清楚だけど、本性はだいぶアレな感じの人間だ。  大学入学と同時に清楚デビューをし、ヤンキー高校時代を黒歴史として封印している。  姉がむちゃくちゃやってくれたおかげで、俺は適当にしていても何も言われない。  友達は、『行き先を言わずに泊まりにいったら親に怒られた』……なんて言ってたけど、うちの親はむしろ、『1泊でちゃんと帰ってくる統はまじめ』くらいの認識でいる。  それにしたって、貯金だなんて、キャラにない発言。  首をひねる姉に答えた。 「友達がやってて、めっちゃ貯まってていいなーみたいな」  ぼけっと答えると、食洗機を回し終えた母が向かいに座った。 「お年玉貯めてるのがあるから、そこにすれば?」 「いや、ゼロからスタートして、自力でここまで貯めました! って感じでやりたいんだよね」 「なるほど。男の発想だわね」  ゆうちょなら、親の同意書とかがなくても、自力で作れるらしい。  あしたにでも郵便局へ行こうとか考えながら黙って食べていたら、姉が笑い出した。 「もらったお菓子すぐ食べちゃう子だった統が、貯金かあ。あたしもしよっかな」 「あんたは貯金の前に、あたしの化粧品勝手に使うのやめなさいよ」 「えー、ケチケチしなくていいじゃん」  雑な漫才を繰り広げる母と姉を呆れた目で見ながら、ぼんやり考える。  いつかここで、春馬さんもいっしょにご飯を食べたりすることがあるだろうか。  どういう反応だろう。  春馬さんは嫌じゃないかな。  気付いたら、難しい顔をしていたらしい。  母が不審げな表情で覗き込んできた。 「あんた、なんか変よ? どうしたの?」 「んむ? 別に」  もぐもぐとご飯をかきこみ、ごまかす。  すると姉が、何か勘付いたように、ニヤニヤしながら尋ねた。 「分かった、彼女できたんでしょ」 「ゴホッ」 「ああ、それで貯金? 単純ね」 「違う違う。できてない」  全力で否定したけど、姉にはゲラゲラ笑われた。  そして母は一言、「ちゃんと避妊しなさいよ」。  ほんと、ロクでもない。  話をうやむやにして、逃げるように部屋へ戻り、そのままお風呂へ。  さっさと寝る準備をして、春馬さんの声を聞きたい。  ザバザバと頭を洗いながら色々思い出して、はーっと長くため息をついた。  心臓に悪い。  女の勘とか全然信じたことなかったけど、もしかしてマジであるのか?  学校でバレないようにばかりを気にしていたけど、実は、1番の敵は家の中にいたのかも知れない。  バレたらどうなるんだろう。  姉のせいで、いや、おかげで、ちょっとやそっとのことじゃ『非行』にカウントされない高野家だけど、さすがに男の教師と付き合ってるのはダメだろうな。  親が、学校に訴えるとして。  とりあえず、春馬さんはクビか。  俺は? 自主退学かな。周りの目がヤバすぎて居られないと思う。  ……と思ったところで、急にサーッと血の気が引いた。  これ、あれじゃん。 『背伸びの補講』の、4話。家族バレ未遂。  漫画の設定では受けくんの家は厳格な感じだから、うちとは全然違うけど。 「あれ……どうなったんだっけ。オチが思い出せない」  漫画の展開がどうだって関係ない。  どうせBLだし、参考になんてなんない。  分かってはいるけど、確認しないと、何かちょっとでもヒントが欲しくて……慌てて洗ってお風呂を出た。

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