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2週間ほどが過ぎ、文化祭当日になった。
正直に言って、きょうは祭りではない。戦 だ。
なぜならば、激萌え白衣の川上先生と学校で親しくしゃべれる、最後のチャンスなのだから……!
一般人ステルスを疎かにすることなく自然科学部の展示を見るにはどうすればいいか。
ありとあらゆる方向で色々考えた結果、開始早々行くのが最善策だと考えた。
うちのクラスはチョコバナナで、店番は3交代制。
恭平が朝イチの店番に当たったのは、超ラッキーだった。
これなら、単独行動をしていても不自然がない。
3階へ上がる。視聴覚ルームではタピオカをやっていて、既に長蛇の列だ。
きゃいきゃいはしゃぐ女子の合間をすすっと抜けて、向かい側の理科室の扉をそっと開けた。
クラスでちょっと浮いている、陰キャの生徒が4人。
ノリのいい高野は割と誰とでも話すので、4人とも普通にしゃべれるし、本当は内心、同胞意識さえ感じている。
もちろん、お首にも出さないけど。
「こんにちはー」
「あっ、高野くん。こんにちは……っ」
大丈夫だよ、そんな挙動不審にならなくても。
ニコニコしながらドアをガラッと開けたら、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「川上せんせー! これどーゆー意味ですかー?」
「わー、星の写真きれいなんですねー。プラネタリウムとか行ってみたいなー」
女子、女子、女子。
しかも、見知らぬ制服の多いこと多いこと。
部員のひとりの袖をくいくいと引っ張って、耳打ちする。
「え、これ、どういう状況……?」
「いやっ……始まった瞬間女子がなだれこんできて……」
ああ、なるほど。中北の遠山礼央。
噂を嗅ぎつけた他校の女子と、なんとかして仲良くなっておきたいうちの女子が、スタートダッシュで押し掛けた、と。
ため息をつき、部員たちを見る。
気の毒だ。文化部の彼らにとっては、活動の成果を見せる本番だったろうに。
「説明してくんない? 興味あって」
「あっ、うん。もちろん」
俺ひとりに対して、部員4人がくっついて回る状態。
まあ、女子の相手なんかできるわけないし、向こうも望んでないだろうし、みんなの頑張りは俺が見ることにする。
春馬さんから部活の話はあまり聞いたことがなかった。
ただ、月に1回、休日に部活の引率に行くことがあって、施設の見学だとか、フィールドワーク的なものだとか、聞いていてちょっと楽しそうだなとは思っていた。
「これは新宿御苑に行った時のやつだよ」
模造紙にまとめられた、植物の分類。それから、みんなの集合写真。
いまいるのは4人だけだけど、1年から3年まで全部合わせると、15人くらいはいるらしい。
端っこにちょこっと写る川上先生は、真顔。
いつもの亀の甲羅みたいな特大リュックを背負っていて、超可愛い。
ふいっと横を見たら、クラスの女子が、明らかに教師・生徒のパーソナルスペースを超えた距離にくっついて、説明をせがんでいた。
女、離れろ……!
「いや、川上先生、すごいよね」
俺がじっと見ているのに気づいたらしい部員のひとりが、苦笑いしながら言った。
「実は、入部希望の女子が何人か来たりもしてて。なんか、土日に課外活動があるという話が尾ひれはひれついちゃったみたい」
「それはまた……迷惑な話でしょ?」
「うーん、正直、何話していいか分かんないし、困るかなあ。向こうも活動自体はつまんないだろうからね」
川上先生が辞めるなんて露ほども知らない女子ども。
お目当てで入った先生がいなくなったらどうなるのか見てみたい、といういじわるな心が顔を出したりもするわけだけど……純粋な部員たちがかわいそうなので、そんな残酷な妄想はやめる。
しかし、改めて考えると、この人たちの青春の部活から、先生を奪っちゃう形になるのか。
そう考えると、ちょっと忍びない感じがする。
「えー、星の観察会って、泊まりなんですかー? 行ってみたーい!」
黙れ、女ども……ッ!
気の散る作り声に内心キレつつ、掲示物の説明を受ける。
すると後ろから、覚えのあるふんわりとした香りがした。
振り向くと、川上先生。
「高野くん、ひとりで来てくれたの? ありがとう」
「あっ、はい。一緒に回る友達が店番中なんで、文化部の発表とかひとりのうちに見て回ろっかなーと。みんな丁寧に説明してくれて分かりやすいです」
部員たちを指さすと、4人はちょっと照れていて、川上先生も、真顔ながらちょっとうれしそうだった。
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