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俺は、のんきな感じでへらっとしながら言った。
「なんか面白そうだし、バイトなかったら自然科学部入ってみたいくらいなんですけど」
「そうなの?」
川上先生が、目をぱちぱちさせる。
部員のひとりが、おずおずと言った。
「平日も活動少ないし、毎回絶対出なきゃいけないってわけでもないから……もしよければ……」
「あ、フル参加じゃなくてもいいの? じゃあ入ろっかなあ」
もちろん、『一般人にステルスする』という観点で言うと、自然科学部は最悪だ。
陰キャの代名詞だし。
でもいま、4人に解説してもらったものはけっこう普通に面白くて、興味が湧いた。
きっと、川上先生が丁寧に教えたりしたからみんな楽しく活動してたんだろうなと思うと、微笑ましくさえ思う。
その説明を聞いていて俺は、学校から川上先生がいなくなるのなら、せめてこの理科室で、彼の名残を感じていたいと思った。
そして、思惑はもうひとつ。
部員のひとりに、小声で耳打ちした。
『みんな、理数系得意だよね?』
『え、うん。基本みんなそうかな……?』
『自然科学部入ったら、教えてくれる?』
彼は、じわじわとうれしそうな顔をしたあと、こくんとうなずいた。
「あー、川上先生。俺、3学期から自然科学部入ります」
「えっ? 本当に?」
「はい。面白そうだし、みんなと仲良くなりたいなーって」
顔に、『僕いないよ?』と書いてある。
噴き出しそうになるのをこらえて、ニコニコと愛想良く笑う。
「俺、3年の選択……っていうか、大学、理系に行こうと思うんです」
「へえ、そうなんだ」
真顔。だけど、たぶんめちゃくちゃびっくりしてる。
我慢してるかと思うと超可愛くて、思わず悶えそうになる。
部員くんが、身を乗り出して聞いてきた。
「えっ何系? うちの部は結構何でもやってるし、みんなで何やるかテーマ決めたりするから、高野くんが入ってくれたら優先的に興味あることやったりもできるし、植物採集から髪の毛の観察まで、何でも興味あることできるからっ」
おうおう、オタクあるある。
興味ある話題になった瞬間マシンガンのごとくしゃべるのね。
「バイオ系いいなーって、よく知らないけど憧れで」
「あー! いい! 先輩にひとりバイオ志望の人いるから話聞いたりできるよ!」
入ると言っているのにつばが飛ぶほど激しく勧誘されて、ちょっと笑ってしまった。
「2学期中はちょっとバイト一生懸命やりたいから、冬休み明けに入部届出すね」
「やったー!」
ぴょこぴょこ跳ねる陰キャは、見てて面白い。
俺も同胞、いやむしろ君らよりヤバいよ、と心の中でつぶやきつつ、ちょこっと川上先生を見る。
きょうの電話は長そうだな、と思った。
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