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 無事文化祭が終わり、家に帰ったのが19:00すぎ。  夕飯は恭平たちと食べてきたので、すぐにお風呂に入ろう……としたら、姉に呼び止められた。 「統、ちょっといい?」 「ん? 長い? お風呂入りたいんだけど」  姉は、何も言わすに舌打ちする。  どこが清楚デビューだ、と思いながら、ずるずると姉の部屋に連行された。 「単刀直入に言うね。恭ちゃんに呼び出されました」 「へ? 何が?」 「来週の土曜日に会いたい、話があるって。あんた、何したの?」 「お、俺……? 何もしてないけど」 「いまゲロってくれんなら、お母さんには言わないでおいてあげるから」  何のことだ。  いや、違う。何言ってんだこいつ。  恭平から個人的に呼び出されたって、お前に用があるんだろうが……! 「何もしてない」 「うそつけ。きっと統に直接言っても聞かないから、困ってあたしに言ってきたんでしょ? あのさあ、あんないい友達持って、しかも困らすってほんとあんた……」  誤解だと否定したいけど、恭平のプライバシーに関わるから、用件が何なのかなんて絶対に言うわけにはいかない。 「……俺、別にやましいことなんもないし。言いたけりゃ母さんに何言ってもいいから、恭平の話は聞いてやってよ」 「何それ? まあいいや、恭ちゃんに聞く」  そしてさっさと追い出された。  意味分からん。  帰宅早々めちゃくちゃに疲れつつ、お風呂に入った。 『こんばんは。きょうはありがとうね』  電話口、春馬さんの声に癒やされる。 「春馬さんこそ、お疲れさま。大変だったでしょ、女子にもみくちゃにされて」 『いや……うん、まあ、教員生活で初めてかな。自然科学部のブースが常に満員なんて』 「部活の見学じゃなくて川上先生の見学だったよね」 『みいが1番ちゃんと見てくれた気がする』 「俺だって川上先生見に行ったんだよ」  ケラケラ笑うと、春馬さんはちょっと黙ったあと、遠慮がちに聞いてきた。 『入るの? 部活』 「うん。まあ、バイトあるし、来年になったら受験もあるから、がっつりは無理だと思うけど。一応、3学期から入ろっかなって思ってる」 『それは……なんで?』  それ、というのは、部活に入ることを聞いているのだろうか。  あるいは、なぜ3学期からなのか、か。 「言ってなかったけど、俺も生物の勉強したいなーって思って。漠然としてるからちゃんと調べたわけじゃないけど、バイオ系楽しそうだなーみたいな」 『就職厳しいよ?』 「それはなんとなく見た」  春馬さんのことが好きだから選んでるに決まってんでしょ、ということは、なんとなく気恥ずかしいから言わない。 『勉強に役立てたいなら、3学期まで待たずに、早めに入れば? バイト忙しい?』 「いや、バイトは言い訳で。なんていうか、直接教わっちゃうと、いなくなったとき寂しくなりそうだから、3学期からにする。でも、『川上先生がいない学校に淡々と通い続けるのは味気ないだろうな』ってずっと思ってたから……解決方法が見つかって良かった」  春馬さんは、小さくふふっと笑った。 『素直なみいが好きだよ』 「何それ、萌える」  もぞっと、布団を丸めてもぐる。  春馬さんの声に全部が包まれている感じがしてほっこりするから、お気に入りの電話スタイルだ。 『あしたはクラスのみんなで打ち上げだっけ?』 「そう。ピザ食べ放題。そのあと家行ってもいい?」 『泊まる?』 「うん。春馬さんが疲れてなかったら」 『待ってる』  抑揚のない話し方、なのに、なんでこんなに落ち着いて、なんでこんなに胸がむずむずして、なんでこんなに激しく会いたくなっちゃうんだろう。  早く抱きしめて欲しいな、と、思う。

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