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 打ち上げ当日、16:00。  先日、春馬さんと一緒に買いに行った服を着て、集合場所の中野駅に向かう。  改札を出ると、既にクラスメイトの半数以上は集まっていた。 「おーい、高野ー!」  輪の中心でぶんぶんと手を振るのは、幹事役の歩美だ。  会費を渡しに、すすっと中に入る。  お兄ちゃんが可愛いと言ったものしか着ないという筋金入りのブラコン。  お兄さんのセンスの良さに感謝しろよ、といつも思う。  うるさいけど基本的にいい奴だし、顔もまあまあ可愛いので、男がけっこうチラチラ見てる気がする。  そう、このイベントは、お互いのファッションの探り合い。  まさに、一般人にステルスできるかの正念場なのだ。  歩美にお金を預けると、その横の男子の小グループに混ざった。 「おー、高野。相変わらずおしゃれだなー」 「ん? 全部安もんだよ」 「どこで買ってんの?」 「原宿」 「ほえー。今度一緒に買い物行こ?」  うん、どう見ても、腐男子を見る目ではない。  ステルス成功、おめでとう。  買い物に付き合ってくれた春馬さんに内心感謝しつつ、適当に会話をする。 「よっ」  肩をトントンと叩かれ、振り返ると、恭平がいた。  おつかれー、と、間抜けな返事をする。  姉を呼び出したことについて、聞いておきたい気もするけど……まあ、恭平の方から言ってくるのを待った方がいいか。  いくら長い付き合いとはいえ、いくら身内のこととはいえ、簡単に首を突っ込んでいい話ではない気がする。  ゾロゾロと、ピザ食べ放題の店に移動する。  朝から何も食べていないという猛者もいて、ちょっと笑ってしまった。  こういうバカなところが、高校生のいいところだと思う。  楽しくて。  心配しなくても、タイミングは勝手にやってきた。  偶然、6人テーブルの4人がいなくなって、恭平とふたりになったところで、さらっと切り出してきたのだ。 「来週、楓さんに話そうと思って。呼び出した」 「うん、知ってる」  同様にさらっと答えると、恭平は、ちょっと面食らった顔をした。 「え、それ、楓さんが言ってきたの? 自分から?」 「うん。って言っても、『あんた何したの』って詰め寄られただけなんだけど」  俺が何かをやらかして、恭平を困らせたと思っているらしい……という話をしたら、コメントの代わりに、『ぷくくくく』という、聞いたこともないような奇妙な笑いが返ってきた。 「……いやまあ、楓さんらしいか」 「なんでそうなるんだよって思ったけど。よっぽど俺、信用されてないのかな」 「いや」  恭平は、紙ナプキンで手を拭きながら、苦笑いした。 「そんくらい俺が意識されてないってことだろ」  まあ、弟の友達だもんな。  小学生でじゃれてた頃から見てるんだから、そういう対象に入んないのかも知れないし。  立場上、どう励ましていいのか分からず、「よく分かんない」と、へらへら笑ってごまかした。  こんな自虐的な発言をする恭平なんか見たことないし、見ていてちょっと心が痛むけど、普通に、あの性格の姉をおすすめできない自分がいて、どうしようもない。  距離が近すぎるゆえ、なのかも知れないけど。  うっとうしいところばっかり見てるし。 「どうだろうね。でもまあ、前も言ったけど、恭平来るとうれしそうにはしてるから」 「ならいいんだけど」  ふいっと、何の脈絡もなく、春馬さんの顔が浮かんだ。  これを食べ終わったら、そのまま泊まりに行くつもりだ。  今頃そわそわして待ってるのかなとか思うと、萌える。  もし、万が一、恭平と姉が付き合うんなら、まあ幸せになって欲しいと思う。  ハイスペの恭平にはもったいないだろう、という理由でおすすめできないだけで、反対してるわけじゃない。  俺が春馬さんと一緒に居て感じる安心感みたいなのを、ふたりが感じられたらいいんじゃない?  ……なんて思いながら、コーラを飲みきった。

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