45 / 69
5-7
会がお開きになり、春馬さんの家に着いたのが19:00。
代々木上原に着いた時点で連絡していたので、インターホンを押すと、2秒でドアが開いた。
待ち構えていたのだろうか。
何それ、萌える。
キュンとしつつそろっとドアを開けると、すきまから、例の黄色い潰れたもぐらTシャツが見えて、悶絶した。
いや、なんでそれなの!?
羽織ってるパーカーが萌え袖で、さらに超可愛いんですけど……!?
「いらっしゃい。って、ん? どうしたの?」
「いや、いや。まあ、ボクはなんて尊い攻めと付き合ってるんだろうと思っただけです」
不思議そうな顔をする春馬さんをぎゅうぎゅうと押しながら、部屋に入る。
はー、癒し。春馬さんの気配に囲まれた空間で。
「買っておいたよ、お泊まりセット」
春馬さんが指さす方向を見ると、ベッドの横に、白いかごが置いてあった。
すたすたと近寄ってみると、部屋着と下着、歯ブラシ、ついでに枕まで。
毎回服を持って来るのが面倒だとぼやいたら、まさかの買っておいてくれた。
……いや、これはいわゆる、半同棲というやつでは?
やば。
きっと同じようなことを考えながら、これを抱えてレジに並ぶ春馬さんを想像すると……色々破壊力がやばい。
思わずだらしない顔をしそうになるのを、すんでのところでとどまる。
「ありがと。いくらだった?」
平静を装ってお財布を取り出そうとしたら、春馬さんはふるふると首を横に振り、そのまま俺の手首をつかんで、キスしてきた。
「んっ!?」
「みいはちょっと、しっかりしすぎだね。こういうのは、可愛く甘えてたらいいと思うよ」
違います、余裕のふりをしようとしました。
という心の声は届くはずもなく、そのままじりじりと追い詰められ、そのままベッドにぼふっと押し倒される。
「春馬さん……?」
「みい。会いたかった。早く来ないかなって、朝からずーっと、みいのことばっかり考えてたから」
そして頬を寄せてくる、9こ年上の恋人。
真顔で。
あー可愛いあー尊い。
「俺も会いたかったよ。友達とも遊べて、春馬さんとも会えて、きょうは良い日」
「楽しかった? みんなでごはん」
「うん。色々しゃべったしめっちゃ食べた」
彼は、慈しむような目で見つめながら、俺の頭をそっとなでた。
感触が気持ち良くて、つい目を閉じる。
「春馬さん、あったかくて、落ち着く」
「そうだね。触れ合うと、気持ちも」
目を閉じたままの俺の顔を、何かを確かめるように、するするとなぞっていく。
おでこに口づけられたので目を開けると、ぼやけるくらいの至近距離に、春馬さんの顔があった。
表情ゼロ。
愛しくて、パーカーの横らへんをつかんだ。
「俺ね、奇跡的だと思うんだよね。春馬さんとこうしてるの」
「僕もそう思うよ」
男同士で好きな人とどうこうなれるなんてありえないし、しかも先生なんて、どう考えても手が届かなそうな相手で。
そんな人が、普通に、自分のことを大事にしてくれている。
恭平の顔が思い浮かんだ。
友達の姉だから、なんてクソくだらない理由であきらめようとしてるなんて、もったいない。
姉のことは全くおすすめできないけど、それと恭平がどう思っているかは関係ない。
俺は、もう一歩踏み込んで、後押ししてやった方がいいんじゃないだろうか。
「……? 何か考えてる?」
声を掛けられて、はっと意識を取り戻す。
春馬さんが不思議そうな顔をしているので、ふるふると首を横に振った。
「何でもない。ちょっと、友達の恋バナ思い出してただけ」
春馬さんは、ふっと小さく笑う。
「クラスメイトと遊んで、楽しかったんだね」
「うん。楽しかった」
「みいが年相応にしてるのを見ると、安心するよ」
聞けば、大人のペースに巻き込んでいるのではないかと、申し訳なくなるときがあるらしい。
なんだそれ。
春馬さんは先生で、頭がいいはずだけど、たまに、とんでもなくズレたことを考える。
俺たちの年齢がどうとか、地球上で最も意味ないこと言ってるって、気づいて欲しいんだけど。
どうでもいいよ。
俺が好き好んで、春馬さんが好きなんだから。
そして俺たちは、好き好んで好き合ってる。
ともだちにシェアしよう!