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その後はなんだかうまくまとまり、母から正田家に電話してぺこぺこし、恭平はうちでご飯を食べて……ふたりが楽しそうにしてたから、良かった。
俺の謎の恋人X氏については、『ツイッターで繋がってた趣味友で、夏休みに一緒に買い物に行ってから付き合うことになった。たまに泊まりに行ってるのは恋人のマンション』という、極めて正確な情報をお伝えした。
嘘はない。趣味友が中野北高校の教員なことを伏せているだけだ。
「……というわけで、言っちゃった。勝手にごめんね。でも、悪い反応じゃなかったよ」
『そう。なら安心』
電話口で、春馬さんがふふっと笑った。
どんな顔してんだろ……絶対尊いよな。
「でもまあ、こんな感じでどさくさにまぎれて言うくらいしかなかった気もするから、良かったよ」
『未成年なのに泊まりとか、非常識な点については何か言ってなかった?』
「あー、大丈夫。姉ちゃんが高校の時、出会い系で知り合った40歳くらいのバツ2男と半同棲してたから、その辺の感覚はマヒしてる」
恭平がさわやかすぎて、姉は浄化され空へ霧散するのではないかとか、あほなことを考えてしまう。
いやでも、顔も心も漢気あふれるイケメンだから、きっと姉をまともにしてくれるだろう。
『あの、みい?』
春馬さんが、遠慮がちに尋ねる。
「ん?」
『えっと、僕もごあいさつに行った方がいいのかな? もちろん、学校辞めてからだけど』
「いや、どっちでもいいよ。来なくても別に気にしないと思うし」
春馬さんは、ちょっと黙った後、平坦な声で言った。
『いや、もしご迷惑でなかったら行かせて? どこの誰かも分からない同性の恋人がいるって、ご心配おかけするだろうし、僕自身、みいがオープンにしてるって知ってるのにだんまりなのは、誠実じゃないかなって思うから』
「はー!」
でっかいため息をついたら、春馬さんが驚いた声を出した。
『……えっ? 何?』
「いやー、俺の恋人がさ、尊すぎて萌えすぎて困るなあ、あははは」
こんな照れ隠しをしてしまうレベルに、うれしかった。
愛されている感じがする。
将来のことまで真剣に考えてくれているんだと思ったら、幸せで仕方がなかった。
『それとね』
「ん?」
『転職先、正式に勤務地が決まりましたので、発表します』
「おっ。ついに」
実は春馬さん、辞表を出して1週間後には既に次の仕事先を確保していたらしく、でも、勤務地がどこになるかが決まるまでは言わないでおく……と言われていたのだ。
『瞬台予備校の成城学園前駅、現役生専門校で、理科の担当をします』
「え!? 結局先生!?」
『うん。教員免許って便利だよ、って言ったでしょ?』
え……俺、大学受験するとき瞬台にしようかな。
さすがに成城までは行かないけど。
でも、動画講座で川上先生が出てきたりしたら、萌え死ねる気がする。
聞けば、学年の途中で辞めて転職なんて、普通は不祥事か何かを疑われて不利らしいんだけど、なんと、校長先生が太鼓判を押す手紙を書いてくれて、履歴書と共に出したら一発採用だったらしい。
「マジで、校長先生イケオジすぎない?」
『本当に感謝してる』
「あー、そういえば俺、ジジ受けとか読んだことなかったけど、今度買ってみようかな」
『みい。いまのは不適切発言』
「生モノは興味ないし、教頭×校長とか思い浮かべたりしないから安心して?」
抑揚のない声で叱られて、それはそれで、めちゃくちゃ萌えた。
<5 先生だって恋に落ちる 終>
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