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その日の晩。
寝る前の電話で、俺は真相を聞いた。
「……じゃあ、朝からずっと、あの説明を続けていたわけね?」
『うん。というか今後も、聞かれた人には全部あの説明をするつもりだけど』
「えっ、なんで?」
『せめてもの禊 ? 完全に自己都合だからね。説明責任があるかな、と』
反応はどのクラスも、あんな感じらしい。
そして授業が始まるギリギリに来たのは、余計な質問を避ける為だったそうだ。
「あのさー。春馬さん、俺に嘘ついてるでしょ?」
『……そうだね』
「2個?」
『うん』
やっぱり。
となると、一切そんなそぶりを見せずに一緒にいたこの人は、なかなかの食わせ者だ。
「当てるね。1個目の嘘は、学校でエッチしたとき。辞表出してそのまま翌週から来ないつもりだった、ってやつだよね」
『当たり。そんなことできるわけないからね』
「じゃあもう1個。辞めるって決めたの、あの時じゃないでしょ?」
『……すごいね、みいは。何でも分かるの?』
春馬さんは、黙っててごめんね、と言って、ちょっと笑った。
『本当は、夏休み明けすぐに、辞めたいという旨は伝えていたんだ。リスクがありすぎるからね。校長先生には、みんなにしたのと同じ説明をして、割とすんなり理解してくれた。それですぐに他の先生や教育委員会にも掛け合ってくれて……でもその代わり、正式に辞表を出すのは、転職先が決まってからにしてくださいと言われたんだ』
要するに、転職活動が難航することを見越していた春馬さんは、ずっと前から動き出していて、俺には隠してたってことだ。
止めるに決まってるから。
『怒る? だましてたの』
「怒らないよ。だまされてたなんて思わないし。ただ、負担掛けてごめんねって思うだけ」
結局俺は子供で、春馬さんにぜーんぶ責任かぶせちゃってたんだなっていうのは、思うけど。
『どうやったらみいと仲良く幸せに暮らせるかなって、ずっと考えてた』
穏やかな声で言われて、キュンとしてしまう。
『思ったより早く決まって良かった。ズルズルと現状のまま付き合っているのはまずいと思っていたし、でも、焦って変な会社に転職したら、それはそれで、みいの為にならないし、って』
ちなみに、校長先生が『川上くんがいないと寂しいモン』と言って辞表を突き返したというエピソード自体は、本当だったらしい。
夏休み明けの時点だけど。
だよな。春馬さんの頭でそんな謎エピソードが生まれるわけがない。
ダメだ。イケオジ校長という認識が、萌え萌え校長に書き換えられていく……。
『期末テストは、僕からの最後の問題だからね。ちゃんと解いてね』
「う……っ、がんばります」
川上先生最後の置き土産、か。
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