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本当に、何事もなかったかのように普通に帰ってきた。
そして、ひとり電車に揺られながら、つくづく恭平は口が堅いなと思った。
歩美がそんな話をしていたなんて、おくびにも出さなかったじゃないか。
それに、歩美も歩美だ。
俺に恋人がいるのも承知だし、別にそれを壊すつもりもなくて、普通に勉強を教えてくれた。
ただの良い奴じゃん。
さて、俺はどうしようか。
この件を、春馬さんに言うべきか伏せるべきか。
何もないとはいえ、聞いていて気分の良いものではないと思うし、残りわずかな学校生活に変なノイズかもと思うと、言わないでいたほうがいい気がした。
春馬さんだって、俺のためを思って、でっかい隠し事をしていたんだ。
俺もそうした方がいい。
言わないことにして、寝る準備ができたというLINEを送った。
ほどなくして電話がかかってくる。
「もしもーし」
『こんばんは、お疲れさま』
ほっとするそのひと声を聞いたら、30秒前に考えていたことは、いとも簡単に頭の中で訂正された。
「あー、あのね。春馬さん。ちょっと報告しときたいことがあって。って言っても、そんな重大な話じゃないからね?」
『うん、なんだろう』
ことのあらましを、大変手短に話した。
いつも通り抑揚のない声で相づちを打っていた春馬さんは、俺が話し終えると、そのトーンのまま言った。
『みいだけじゃない? それ、気づいてなかったの』
「え?」
『片瀬さん、どう見てもみいのこと好きだったもん。けっこう分かりやすく』
「は!?」
え? え? 春馬さんも気づいていた?
「うそっ。春馬さんってそういうの鈍い派じゃないの?」
『いや? 僕、表情に出ないだけで、人が何考えてるかとかは、割とすぐ分かるタイプ』
「え、超意外」
『見破れなかったのは、みいが僕のこと好きだった件くらいじゃないかなあ?』
ぎゃあああああ!
突然尊い攻めみたいなこと言うんだからこの人はあああああ!
激甚に萌えて、死にそうになりながら話を続ける。
「……いやでもまあ、ほんとなんにもないからね。ってことだけ。一応ね」
『うん、分かった』
一拍の沈黙。
そして、春馬さんがふはっと笑った。
『みい、女子が当て馬なストーリー大嫌いなのにね』
「いやいや、受けが告られる上に勝手に諦められて終わってる話なんか、聞いたことないよ。超要らないシーンじゃん」
『どうかな』
楽しそうな春馬さん。
なんだこれ。
……と思ったけど、まあ、特に心配かけたりしてないならいいかと、この時は思ったのだ。
俺は、知る由もなかった。
まさか、この『どうかな』という何気ない一言が、のちに超絶萌えを引き起こすフラグだったなんて。
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