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ついにテスト前日。
実は、やきもち大爆発事件からは一転、全然春馬さんと関われなくなっていた。
学校では常に職員室でパソコンを叩いていて、テスト前と退職前で予定がパツパツなのだろうなというのが見てとれる。
俺は俺で勉強があるし、寝る前の電話も、5分くらい。
でもまあ、どんなに忙しくても時間を取ってくれるのはうれしいし、愛されている感じがする。
ふと、付き合う前、俺との電話だけが癒しだと言ってくれていたことを思い出した。
川上先生からの、最後の問題。
まあぶっちゃけ、理科100点は無理だろうと思っていて、でもせめて、生物の項目はパーフェクトを目指したいと思っている。
夕食後。
リビングでアイスを食べながら暗記カードを見ていたら、姉が覗き込んできた。
「統、今回めっちゃ気合い入ってるね」
「うん。理科の先生がひとり辞めちゃうんだよね。で、恩返し的に良い点取ろうっていう。多分他の人たちも同じこと考えてるだろうから、今回理科の平均すごい上がりそうで」
「へー、良い先生なんだ」
「うん。人気」
そのうち連れてきます、と、心の中で付け足す。
「あたし、高校時代全然勉強しなかったからなあ」
「よく大学入れたよね」
「ま、元々地頭はいいんで」
「なんかコツある?」
まさか姉に勉強のコツを教わる日なんか来ると思わなかったけど……一応大学受験の死線をくぐりぬけているのだから、聞く価値はあるだろうと思った。
「テストが返却されで喜ぶ自分を想像するんだよ。あたしは、大学入って清楚キャラに変わって、かっこいい彼氏ができる想像をしてた。そしてできた」
「恭平かっこいいもんね」
姉は満足そうに目を細めて、俺の頭をぐしゃぐしゃとなでた。
「じゃ、がんばれよー」
ひらひらと手を振って部屋に戻る姉を、目線だけで見送る。
何か想像、か。
やっぱ、春馬さんに褒められるところかな。
最後に頑張ってくれてうれしいとかなんとか言って、キスしてくれるとか。
んで、濃厚エッ……
考えかけてやめる。
アイスの棒を捨てて、自室に戻った。
11月26日、テスト初日。
テスト日和! とは言い難い、曇天だった。
いや、テストに気候は関係ないか。
粛々と、出された問題を解くだけである。
今回は理数科目に全力を注いだため、正直、文系や副教科は捨てていたんだけど、それでもいつもよりできた。
勉強の集中力と吸収力が違ったのだろう。
そして、運命の理科。
問題をめくった瞬間、思った。
これ、楽勝だ……と。
まずはさくっと地学を埋め、物理と化学の用語暗記部分を書き込み、時計を見る。
時間は余裕。
片瀬家式では、先に簡単なものをやり、真ん中で絶対落とせないものを解いて、余裕を残した状態でめんどくさい計算問題に取りかかると教わった。
というわけで、本命の生物。
用語の穴埋めは簡単に埋まって、文章題に入る……と、俺は、川上先生の『最後の問題』がなんなのかに気づいてしまった。
観察実験。
4人ずつの4グループに分かれた人たちが、それぞれ別の主張をしている。
[問1]同じ条件下の人を2人書きなさい
[答] せいや、りく
……ああああああもうっ!
この世で最もぺろぺろしたいCPだよ超サービス問題ありがとうございましたッ!
いや、これ、俺だけじゃなくて腐女子層気づくんじゃないの?
せい×りくだよ?
飛ぶ鳥を落とす勢いのヘヴンズヘヴンだよ?
ていうか、選択肢に推しの名前があったらゼロ思考で書いちゃうのが、腐女子の生態でしょ?
……と思ったけど、よくよく考えたら、この問題はかなり巧妙な引っかけな気がしてきた。
選択肢が16人と、多い。
それに、それぞれの『主張』はかなり細かな違いで、相当教科書を読み込んでいないと、正解にはたどり着かない気がする。
そして何より、この引っ掛け方は……。
なるほど。俺がどんだけ頑張ったか試してくれたってことか。
俺はそっと、消しゴムを手に取った。
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