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7 卒業の後は**
クリスマスの日の晩、春馬さんの家でまったりケーキを食べていたら、恭平からLINEが来た。
[キスした]
絶望的にコメントに困る報告だったけど、律儀な男なのだと考え直し、返信する。
[おめでとう]
あまりにそっけないか。
ちょっと考えて、さくさくと文面を作った。
[俺、あした付き合ってる人を家族に紹介することになってるんで、よければ恭平オニイサンも来て下さい。オトウトになるかも知れないんで]
送信し、スマホをぽいっとテーブルの上に置く。
そしてぼんやりと思い浮かべた。
恭平が姉と結婚したら、恭平は俺の義理の兄になり、春馬さんは実質、恭平の義理の弟、と。
何そのカオス。
そんなことになったら、絶対腹筋崩壊する。
春馬さんは、いちごをぱくっと口に放りこんでから、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「本当にいいの? 僕まだ、書類上は退職してないよ? 年明けてからの方がいいんじゃないの?」
「いや、こういうのはすぐ動いた方がいいよ」
絶対面白いから、なんて、本人には言えないけど。
家族は、俺の付き合ってる人が男なことについて、もはや何も思っていないらしい。
連れてきてもいいかと聞いたら、母は普通に、『掃除しなきゃ』と言い出した。
父は、酒は何が好きか聞いてきなさいと言った。
交際に大反対のくだりは、姉でやり尽くしたのだと思う。
ありがとう、かつてのダメ彼氏達。
春馬さんは、お皿に残った生クリームを指ですくい、何を思ったのか、真顔のまま俺の口の端にくっつけた。
「ん?」
そして、横からぺろっとなめられた。
驚きのあまり、口を押さえてバッと離れる。
「び、びっくりしたあ……!」
「ごめんごめん。やってみたくなっちゃって。さっき、まさきゆう先生のツイッターにクリスマスイラストが載ってて、それがそんな感じだったから……みいもやったら可愛いかな、とか」
はああああ。
先生辞めても萌え散らかさせにくる、恐るべし川上春馬。
まだ心拍数が下がらないままの俺に、春馬さんはもう一度、控えめに尋ねた。
「本当に平気? 早すぎたって、後悔しない?」
「しない。大丈夫。絶対」
そりゃ、春馬さんの不安な気持ちは、死ぬほど分かる。
なにせ、仕事を捨てたんだ。
これで俺の家族に受け入れられなくて別れるなんてことになったら、人生が狂ってしまう。
もう少しタイミングを見てからでも……と言いたいのだろう。けど。
「春馬さん。むしろ、いま言わないとなんだよ。こういうのって、引っ張れば引っ張るほど、衝撃大きいからさ。さくっと現れて、『どうも、高野くんのために教職を捨てた川上です。こんにちは』くらいの軽いノリの方が良いんだって」
「そうかな」
「うん。絶対そう」
恭平、腰抜かすかな……!
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