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プロローグ・5

「矢守くん、先生は繊細な心身の持ち主でね。そこんとこ、気を付けてね」 「はい」 「これ、先生が好きな食べ物とか、香りとか、紅茶の銘柄とか書いてあるから。参考にして」 「はい」  素直に返事をしながら、等は蛍を観察していた。  淡い栗色の、ふわふわした髪。  色白の、眼の大きな品の良い顔立ち。  身長は、170㎝に届かないだろう。  薄くて細い、肉付き。 (……リスザルだな)  大柄で濃い自分と比べて、何もかも相反する外見だ。  しかし、今はそんなことは重要ではない。  彼に元気を吹き込み、読者が泣いて喜ぶ傑作を書かせる。  それが、今回請け負ったミッションなのだ。  浮かない顔の蛍と、わくわくした表情の等。  二人の間で吉村が何か話していたが、彼らの耳には届かなかった。 (ああ、面倒くさい) (面白くなってきた!)  相反する思いを胸に、共同生活が始まった。

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