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第一章・4

「蛍、ちょっとだけ起きて」 「ん~」  眼を開けると、等がニコニコしている。 「寝室の掃除、終わったよ。これを飲んで、歯磨きして、ベッドで寝ていいよ」 「これは?」 「俺特製の、栄養ドリンク。美味しいんだから」  ありがた迷惑なことだ、と蛍は軽く会釈をしてグラスに口を付けた。  とろりとした、淡い桃色のスムージー。  冷たく、ほの甘く、よい香りがした。 「おいしい」 「よかった」  何かがおいしい、と感じたことなど久しぶりだ。  蛍はまるで噛みしめるように、スムージーをゆっくり飲んだ。 「ごちそうさま」  そう言って、寝室へ行こうとすると。 「ストップ。歯磨きは?」 「面倒くさいよ」  ダメダメ、と等は真新しい歯ブラシを蛍に手渡した。  すでに、デンタルペーストまで付けてある。

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