29 / 55
第三章・5
蛍は蛍で、頭の中がぐちゃぐちゃに乱れていた。
そして、恐れていた。
(小説ではこの後、舌を絡ませ合ってくちゅくちゅ唾液を鳴らしたりするんだよね!)
そんなこと、できない!
「ちょ、ちょっと休憩!」
無理に離れた蛍に、等は確信した。
「蛍、もしかして、童貞?」
「な……ッ!」
そんなわけないじゃない、と蛍はまくし立てた。
「僕の小説、読んでるよね!? BLで、成人向けの作品だよ? 経験が無ければ、書けるわけないじゃないか!」
「むきになって否定するところが、怪しいなぁ」
蛍は、もう泣きそうだった。
こんなことなら『恋人』のカードなんか受け取るんじゃなかった!
しかし、等はそれ以上彼を苛めることはなかった。
「ごめんな。ちょっと気になったから」
蛍が嫌なら、これ以上は何もしないよ、とソファを立つ等。
「明日の朝食の準備があるから、もう行くね」
そう言って、再びキッチンへ入ってしまった。
ともだちにシェアしよう!