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第三章・5

 蛍は蛍で、頭の中がぐちゃぐちゃに乱れていた。  そして、恐れていた。 (小説ではこの後、舌を絡ませ合ってくちゅくちゅ唾液を鳴らしたりするんだよね!)  そんなこと、できない! 「ちょ、ちょっと休憩!」  無理に離れた蛍に、等は確信した。 「蛍、もしかして、童貞?」 「な……ッ!」  そんなわけないじゃない、と蛍はまくし立てた。 「僕の小説、読んでるよね!? BLで、成人向けの作品だよ? 経験が無ければ、書けるわけないじゃないか!」 「むきになって否定するところが、怪しいなぁ」  蛍は、もう泣きそうだった。  こんなことなら『恋人』のカードなんか受け取るんじゃなかった!  しかし、等はそれ以上彼を苛めることはなかった。 「ごめんな。ちょっと気になったから」  蛍が嫌なら、これ以上は何もしないよ、とソファを立つ等。 「明日の朝食の準備があるから、もう行くね」  そう言って、再びキッチンへ入ってしまった。

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