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第三章・8
朝食の席には、焼きたてのパンが用意してあった。
「キッチンに、未使用のホームベーカリーがあったから」
昨夜、種を仕込んで朝に焼いたよ、と嬉しそうな等だ。
そういえば、そんなものを貰ったような。
「確か、このマンションに引っ越してきた時に、担当さんがお祝いにくれたんだ」
「担当さん、って、吉村さん?」
「ううん。その前の前の前……、くらいかな」
「箱ごと未開封だったぞ。もったいないなぁ」
焼き立てパンは、びっくりするほど美味しかった。
まさか、面倒くさい、と放置していた道具が、動く時が来ようとは。
「さて。蛍は今日、何がしたい?」
食後の紅茶を飲みながら、等がそう持ち掛けてきた。
今までは、彼が勝手に決めていたというのに。
「恋人になったからね。パートナーの意見も尊重するよ」
(ずうずうしかったり、優しかったり。恋人って変だなぁ)
そう言うなら、蛍には行きたいところがあった。
「タピオカ、もう一度飲みに行きたいな」
「いいよ。でも、なぜ?」
それは……。
(前に行った時、ちょっと口喧嘩しちゃったから、今度は気持ちよく味わいたい、なんて)
とても、言えない!
目線を下にしてしまった蛍に、等は優しい声をかけた。
「解ってるよ。だから、無理に話さなくてもいいよ」
素直じゃないんだから、と髪を撫でてくれる。
そんな等に、蛍は何だか泣きたい気持ちになった。
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