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第三章・9

 小雨がぱらつく天気だったので、等は傘を用意した。  1本だけ。 「僕の分は?」 「何言ってるのさ」  一つの傘に、等は蛍を抱き寄せ二人で入る。 「ちょ、密着し過ぎ!」 「いいじゃない、何たって俺たちは」  恋人同士。 (恋人って、こんなこともするの!?)  しかし、これは今まで小説に書かなかった。  いずれ機会があれば描写しよう、と執筆のことなど考えていると、等が目を覗き込んできた。 「今、仕事のこと考えてたでしょう」 「うん」 「ヤだなぁ。俺のこと、見てよ。デート中だろ?」 「デート!?」  一緒にドリンク飲みに来るのは、デートなのか!  照れてしまって挙動不審に陥っている蛍に、等はメニューを差し出した。 「今日は、何飲む?」  蛍は、救いのようにメニューに没頭した。

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