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エピローグ・3

「心から、御礼を言いますよ」  吉村は、等と固い握手を交わしていた。  蛍の新作『静謐なる夢』はベストセラーとなり、若手の登竜門と呼ばれる文芸賞も受賞した。  これも等のおかげ、と出版社は大喜びだった。  喜んでいない人間が、ただ一人。  それは、作者である蛍自身だった。 「じゃあ、蛍。いや、粟生先生、俺はこれでサヨナラです」 「行っちゃうの?」 「吉村さんとの契約は、果たしましたからね」  タメ口から、丁寧語に変わってる。  本当に、仕事で恋人やってたんだ。等は。  お元気で、とやけにあっさりと彼は行ってしまった。  後にぽつんと残された蛍は、心に穴が開いたようだった。  僕は、等が本当に好きになっちゃったんだ。  彼の顔を思い出すだけで、涙がにじんでくる。  蛍は、急いでPCを開くと、指先をもつれさせながらキーを打った。

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