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第2話 カラー
先生のおかげで、僕が企画したブライダルイベントは大盛況だった。
小糸真世新作のライラックのドレスと、それの対になる白いドレス・ホワイトライラックも発表されて。
この2つのドレスは1年先までレンタルの予約でいっぱいになってしまった。
さすが。
やっぱりすごいなぁ、先生と先生のドレスは。
いいドレスはやっぱり人を惹きつけるんだ。
僕はソファに寝っ転がって、そのイベントの写真を眺めては、ニヤついていたんだ。
「結也、ご機嫌だね」
先生......ライラックのドレスを作ったデザイナーの小糸真世先生が、にっこり笑って僕にハーブティーを差し出した。
そう、僕は今、先生のとこにきている。
イベントが大盛況だったから、そのご褒美に僕は1週間丸々休みをもらえて。
ここぞとばかりに、先生のとこに、ついおしかけてしまったんだ。
忙しいはずなのに、優しく僕を迎え入れてくれて、図々しくも先生の家のソファで寛いじゃったりしている。
........しばらく、恋愛はしないはずだったんだ、僕は。
前の彼女に、僕の全部を否定する、ジワジワ効いてくるボディブロウのような言葉を投げつけられて、地味にショックだったから。
なのに、今。
対象は女性から男性に変わってしまったけど、僕は先生と恋愛をしていて、今まで経験したことないくくらい充足していて。
不思議、な感じだ。
ドレスが好きって、堂々と言えるし。
しかも、そのドレスができる過程をつぶさに見ることもできる。
ずっと、ここにいたくなるんだ。
........そして、僕は先生からそのハーブティーを受け取るのを躊躇してしまった。
.........なんも、いや、なんか入ってないよな?
「今日は何も入ってないよ」
先生がにっこり笑って言う。
先生を疑って悪いことしちゃったな......。
僕は先生からハーブティーを受け取ると、一口、口に含んだ。
「あ、これも美味しい。違うブレンドですか?」
「でしょ?色々できるんだよ、俺は」
先生は僕の隣に腰掛けて言った。
「今、どんなドレスを手掛けてるんですか?」
「今?今はオーダーメイドを作ってるんだ」
「オーダーメイド!すごいなぁ......。
やっぱり、オーダーメイドとか、その方をイメージして作られてるんですか?」
「まぁ、そうだなぁ。
今作ってるドレスは、カラーをイメージしてるかな?」
「カラー?白い花の......カラーですか?」
「そう、それ。背が高くて上品な人だからね」
「見て......みたいなぁ......僕」
「出来たら結也に一番に見せてあげる」
「それ......は、僕じゃない......です.....」
なんか、また、変だ。
あっと言う間に。
体が中から熱くなって、息が上がる。
でも、この間と決定的に違うことがある。
それは.......もう、すでに僕ができあがっちゃってるってこと。
........なんか、僕のが熱いし、たっちゃってて。
後ろもなんかムズムズしちゃって..........おかしい。
「せんせ.......また、なんか......,.」
先生は服の中に手を入れて、僕のを手で擦りながら、僕に深くキスをする。
先生の上からと下からの刺激で、僕はたまらず身体をビクつかせて反応してしまった。
「やっぱり、アシュワガンダを入れると相乗効果がすごいな」
「......んぁ、....せん....せ」
「結也、俺が欲しいって、言って」
また、そんな無理難題を......。
「せんせ........ほし......」
その無理難題を、僕は恥ずかしげもなく、なんで言ってしまうようになったんだろう......。
顔から火が出るくらい、恥ずかしい。
「聞こえないよ、結也。ちゃんと言って。言わないと、気持ちよくさせてあげられない」
先生はイジワルだ。
そして、僕は先生には敵わない。
わかってるのに、そんなこと。
「......せんせ、が.......ぼく、ほしい」
「よくできました」
先生は僕にそう囁くと、僕をうつ伏せにひっくり返したんだ。
「....,.ん...あぁ」
「結也.......キレイ......」
先生が僕を後ろから激しく突き上げる。
ただでさえ、気持ちがよくてどうにかなりそうなのに。
前後に揺さぶられている僕の身体に、先生は腕をからませて僕にイジワルをしてくるんだ。
僕の胸をつまんだり、僕のを擦ったり。
僕の口の中にそのキレイな手を入れて、僕の舌をもてあそんだり。
僕はまた、先生のもたらす快楽に溺れて、グズグズになってしまうんだ。
気がついたら、僕はベッドの上に寝ていて、作業部屋で先生が真剣な顔をしてドレスを製作しているのが見えた。
先生、元気だなぁ。
僕なんか、先生にグズグズにされてあっと言う間に意識が飛んじゃうのに。
先生、いつ、寝てるんだろうか。
先生に無理させて、ないよな?
先生の仕事に支障をきたしてないよな?
そう考えると、不安になってしまって、僕はそっとベッドから体をおこしたんだ。
外はまだ明るくて、僕は色とりどりの花が咲き乱れる庭を歩いた。
一つ一つ違う花がキラキラしてて、癒される。
ドレスみたいだ。
あぁ、だから、先生はよく花をテーマにドレスを作られるんだ。
「あなた、ここの人?」
背後で僕に向けた声がして、僕は振り返った。
うわ......綺麗な人。
背が高くて上品で......まてよ、この人どっかで見たことあるぞ?
「あっ!!」
僕は思わず声を上げてしまった。
この人女優さんだ!!
女優の小松桜子さんだっ!!
オーラ半端ないし、綺麗だし、それに.......なんでこんなにとこにいるわけ?!
........あ、あのドレスの。
先生が製作しているあのドレスをオーダーメイドしたんだ、この人。
先生が言うとおり、カラーがピッタリな人だ。
「真世、中にいる?」
「あ、はい。先生は中で製作中です」
「そう、ありがとう」
あぁ.....緊張する。
職業柄、イベントで何度か芸能人に会ったことくらいあるけどさ、この人は、ずば抜けて半端ない。
女優さん、ってすごいな......。
「あ!あなた」
再び小松桜子さんに話しかけられて僕は、飛び上がるくらいビックリした。
「ハイ!」
その人は僕に向かって、スクリーンの中にいるような、綺麗な優しい笑みを浮かべて僕に言ったんだ。
「あなた綺麗ね。さっき庭の中に白いバラが咲いてるみたいに見えちゃった。
真世が好きそうな感じね」
.......やっぱ、すごいな。
普通の人が言ったら歯茎が痺れそうになるくらい甘い言葉をサラッといってのける女優さんは、ボキャブラリーまで半端ない。
桜子さんはかっこよく言うと、颯爽と建物の中に入っていった。
庭から見える先生の作業部屋。
先生と桜子さんが、ハグしたり、笑ったり、仲良さげに話をしている様子が見えて。
少し......胸が痛くなった。
先生と、どんな関係なんだろう。
先生にウェディングドレスをオーダーするくらいだから、よっぽど親しい関係なんだろうな。
彼女......とか、なのかな.....?
そう思うと彼女にこっぴどくフラれた記憶がフラッシュバックしてきて、息が苦しくなる。
やっぱり、恋愛なんか、しなきゃよかった。
僕だけが先生にのぼせ上がってたまらなく好きになって、でも先生にはあんなステキな彼女がいて......。
それに、あのカラーの、あのドレス。
先生と桜子さんの結婚式のかも......。
.......あ、僕........泣いてる。
彼女と別れた時は泣かなかったのに......。
なんで、先生にフラれたら、こんなに泣けてくるんだろう。
僕は庭にうずくまってしまった。
すぐ近くに咲いてるラベンダーの花の香りが鼻腔をくすぐって、癒されるのに、でも、胸が苦しくて。
膝を抱えて子どもみたいに泣いてしまったんだ。
「....也!.....結也!結也、起きて!!」
僕は先生の声で、ハッとした。
僕はいつの間にか庭のど真ん中で寝ていたみたいで。
目を開けると、目の前には心配そうに瞳を揺らして僕を覗き混んでいる先生の顔があって........。
状況が飲み込めなくて、僕はボーっとしてしまう。
こんなとこで寝るなんて、疲れが......たまってたのかな.....。
イベントで疲れてたし、先生にはフラれちゃったし。
傷心してぼんやりしている僕を先生は、痛いくらい強く抱きしめてきた。
「よかったぁ!生きてるぅ!!死んじゃってるのかと思ったーっ!!」
「え?」
「もう、俺に黙ってフラフラしないで!!
結也がいなくなったかと思って、気が気じゃなくて......こんな思い、もう2度としたくない」
「先生、その言葉は僕じゃなくて、桜子さんに言わなきゃ」
「.......なんで?」
「先生、桜子さんと結婚するんでしょ?」
「......は?」
「え?違うんですか?」
「小松桜子は、俺の姉だけど」
........え?.......え?!........えーっ!?
驚きのあまり僕は先生の体を無理矢理引き離して立ち上がった。
先生の後ろには、桜子さんが腕組みをして仁王立ちをしていて........。
そういえば、なんか、似てる。
この人たち。
「なんで私が弟と結婚しなきゃいけないのよ」
美人にこれでもか、っていうくらい睨まれると人間って、ボキャブラリーが壊死して「すみません」って言葉以外出てこないことが分かった。
気がつくと、僕はひたすら桜子さんと先生に「すみません」を連呼して謝ってしまっていた。
そして、ホッとしたんだ。
僕、先生にフラれてなかったんだって。
僕、先生を好きでいいんだって。
「もう、いいわよ。結也さん」
桜子さんが、僕の頰にを手で添えるとすいこまれそうなくらい真剣な眼差しで僕に言った。
「真世は末っ子で甘やかされて育ったせいか、一歩外にでたら〝まるでダメ男〟なの。
だから、結也さん。
真世のそばにいて、ちゃんと真世を導いてくれない?
あなたが真世のそばにいてくれたら、私、安心するわ。.........少し頼りないけど......」
最後の方の言葉がズキッとしたけど、僕の真剣さを桜子さんにわかってほしくて、桜子さんに負けないくらい真っ直ぐに見返して言ったんだ。
「承知いたしました。お任せください。お姉様」
先生がベッドに体をうずめて、肩を震わせている。
.........まだ、笑ってるし。
さっき僕が桜子さんに言った「承知いたしました。お任せください。お姉様」って言葉が、先生のツボにハマったらしく、かれこれこの状態で30分は笑っている。
「先生、いい加減に笑うのやめてください」
「だって......だって.....お任せ......お姉様...あははは」
「............先生」
「ごめん、ごめんってば.......結也」
先生は体を起こして、ベッドサイドに座っている僕の体を後ろから抱きしめた。
「怒った?」
「怒ってません」
「怒ってるでしょ?」
「怒ってません!先生に呆れてるんです!
.......あと、恥ずかしくて......」
つい、勢いで、なんであんなこと言ってしまったかな、僕は。
でも、それだけ。
先生のことを真剣に考えてるって、知ってほしかったんだ。
先生が後ろからキスをして、舌を絡ませる。
そして、僕のに手を滑らせてくるから、僕はその手を制したんだ。
「結也?」
ビックリした顔をして僕から唇を離した。
「先生、何時も先生に気持ちよくさせてもらってるから.........。
今日は、僕が先生を気持ちよくさせたいんです、ダメですか?」
「結也......」
僕はベッドから降りて先生の前にひざまづく。
「初めてするし......ヘタクソだったら申し訳ないんですけど.......頑張ってみて、いいですか?」
上手....に......できてるか、わかんない.....けど。
先生のが口の中いっぱいに満たしてきて、ノドの奥にあたる。
「.......あ、....ゆう....や.....」
先生の乱れた声が僕の耳に届いて、また僕は懸命に先生のを咥えるんだ。
「ゆ.....ダ...ダメだ.......イッ......あっ.....」
先生の体に力が入った瞬間、僕の喉に熱いのが流れ落ちる。
僕の口の中から先生が慌てて抜くから、残りの熱いのが僕の顔にかかってしまった。
.......ビックリ、した。
こんなこと......初めてだし.......ビックリするよな、普通。
「ごめん!結也!!あんまり気持ちよかったから、つい......本当、ごめん!!」
先生が僕の顔を慌ててタオルで拭いて、申し訳なさそうに僕を抱き上げる。
「ごめん、結也。気持ち悪くない?大丈夫?」
「大丈夫です、先生。それより、気持ちよかったですか?」
先生は小さく頷いた。
「よかった.....」
僕は本当に嬉しかったんだ。
やっと、先生に頼りにしてもらったような感じがして......。
先生から気持ち良さをもらうだけじゃなくて、僕も先生に気持ち良さをあげられて、本当に嬉しかったんだ。
でも、そのあと。
「あ......あ..ん....せんせ.....ぇ」
いつものように先生に、中を深く突き上げられた。
深く、より深く。
僕が先生を気持ちよくさせたからかな.......いつもより、激し.......い......。
「結也......好きだ.....」
そう愛を囁いて僕をかき乱す先生が、たまらなく愛しくなって、僕は先生にしがみついたんだ。
「せんせ......僕も、好き」
長い休みが終わって、僕はまたいつもの生活に戻って、キラキラした新作ドレスをディスプレイする。
このピンクのドレス、人気でそうだなぁ。
胸のところが深い紫になっていて、色白の花嫁さんに映えそう。
「結也、1番に外線が入ってるよ。コイトマオ様から」
「はい」
チーフが僕に電話を繋いだ。
コイトマオ様?
誰だ?それ。
その人が誰だか全く見当もつかず、僕は緊張して受話器を取ったんだ。
「おまたせいたしました。ブライダルサロン幸田でございます」
『あ、結也!!お久しぶり!!』
「はい?」
『私よ、私!!小松桜子』
「え!?だって!コイトマオって」
『小糸真桜は、私の本名なんだけど?』
「........さようでございますか......」
『結也、帝都ホテルのブライダルにいたのね』
「はい.......」
『私、結也のとこで結婚式したいの』
「ありがとうござ........え?......えーっ!?」
僕は受話器を持っているにもかかわらず、サロン中に響き渡るくらい、驚きの声を上げてしまったんだ。
〝女優、小松桜子。帝都ホテルで挙式〟
なんて、話題性バッチリで。
その報道があってから、ブライダルサロンは予約と見学の電話がひっきりなしに鳴っていた。
桜子さん、キレイだったなぁ。
あの、カラーをイメージしたウェディングドレス。
胸元は華奢で、ウエストから膝にかけてカラーの花びらのような布が上品にマーメイドラインのドレスを引き立てて.........。
やっぱり、先生のドレスは宝石みたいだ。
そして、あんなにキレイで幸せそうな桜子さんを見たことがなくて、そんな桜子さんはドレス以上にキラキラしていて。
僕は本当に幸せな気分になったんだ。
この仕事してて、本当によかった。
桜子さんとを思い出して余韻に浸っていたら、僕のスマホが震えた。
あ、先生からラインだ。
『結也、今度休みいつ?』
「明後日です。明日、仕事が終わったら行っていいですか?」
『もちろん、まってるよ』
僕は、思わずニヤけてしまう。
長い道のりだって、全然苦じゃない。
だって、先生に会えるんだから。
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