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「この人民元は中国人用通貨です。同じ金額の札がFECにもありますけど、街中でチェンジすれば今のレートで100FECは140人民元になります」  三人は興味深い顔で聞いている。1元は現在のレートで約13.5円。40元の差額なら約540円。現在の平均月収が5000円程度のこの国では大きいだろう。 「価値が違うってこと? 同じ額面で?」 「はい」 「銀行では同じ金額って扱いだよね?」 「そうです。中国は二重通貨の国なので、外国人には何かと高く設定されているんです。ホテルの宿泊料も観光地の入場料も飛行機や列車の切符も、外国人価格と中国人価格があります。食堂でも外国人価格の設定があったりします。場所によりますけど、中国人の3倍から10倍の設定だと思えばいいかな」 「ああ、そういうことだったのか」  赴任前にさらっと中国事情のレクチャーを受けたという祐樹は、その説明になにやら納得した顔になった。話を聞いただけではピンとこなかったが、中国に来てみて腑に落ちる場面に遭遇したのだろう。 「そういえば、社員食堂も値段が二種類あるけど、そういうこと?」 「たぶんそうだと思います。社員食堂は知りませんが、同じメニューで価格が違うんでしょう?」 「うん。メニューそのものが違うこともある。現地社員とは給与体系が違うからそのせいかと思ってたけど、外国人価格だったのか」 「ずいぶん露骨な外貨獲得政策ってやつだな」 「それでぼったくるのが当たり前になってんのかな?」 「ぼったくるというか、言ったもん勝ちって感じな気がします」  値段に不満があれば、交渉すれば下げてくれる。買い手が納得する値段で売る、という考え方なのだ。 「そうか……。もともと買い物は交渉制だろ?」 「そうですね。ほとんど何でも交渉します」 「そもそも定価ってあんの?」 「ものによってはありますよ」 「例えば?」 「本とか薬とかは一応定価書いてあります」 「ああ、なるほど」  話しながら王府井大街のいちばん故宮側まで来て、四人は足を止めた。 「へえ、マクドナルドがあるんだな」  ガラス張りの店内も大混雑だが、外にも人だかりができている。  スーツやワンピースでばっちり気合の入った中国人たちが行列を作って、ベンチに座った作りもののドナルド人形と肩を組むようにポーズをとって何枚も写真を撮っているのだ。 「資本主義の象徴って感じの店なのに流行ってるんだ」 「麦当労(マイタンラオ)って読みます。去年できたばっかりだからいつもこんな感じですっごく混んでますよ」  店内ではまるで高級レストランでディナーでも食べているような光景が広がっている。 「へえ、去年? 最近なんだな」 「はい。味はまあ、日本とは違う気もするけど、普通かな。上海にはケンタッキーもあるらしいけど北京にはまだなくて」 「やっぱり上海のほうが進んでる?」 「たぶん都会度から言えば上海のほうが上ですよ。日本のファーストフードなら吉野家がありますよ。個人的には牛肉があまりおいしくないので、牛丼はおすすめしません。鳥丼はまあまあです」 「吉野家に鳥丼があるの?」  スーツ姿の三人は怪訝な顔をする。 「日本にはないんですか?」  日本では吉野家に行ったことがない孝弘がそう訊けば、メーカーの二人は「ないよ」と首を横に振って面白いねと笑っていた。 ※注:現在の中国にはFECはありません。

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