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「中国語ってケンカしてるみたいに聞こえるよな」 「あれって、なんて言ってるの?」 「このシャツが15元ってちょっと高すぎる、負けてよ。ものがいいんだよ、お買い得だけど3枚買うなら負けとくよ。じゃあ3枚でいくら? あんたの言い値はいくらだい? 3枚40元なら買ってもいいよ、って感じです」 「どこでも値段交渉ってするんだっけ?」 「こういう露店では絶対します。野菜や肉の市場もそうですね。500グラムいくらって訊き方をして、欲しいだけ量りではかって買います。あとは家電とか家具も交渉次第だし、うーん、交渉しないほうが少ないかも」  考えてみれば、黙って買い物をすることがほとんどない気がした。 「食品スーパーでは定価がついてるからないかな、店頭とか屋台で売ってる食べ物も交渉なしですね。そもそも安いんで。でもそれも量と交渉次第なのかもしれないです」  周囲のやかましさに圧倒されて、三人はおとなしく孝弘について、あちこちの商店や露店を見て回った。来たついでに夏服が欲しかった孝弘はTシャツとジーンズを買うことにする。 「試着できるんだね」  露店に試着室などはもちろんなく、店主が適当に広げた布で隠すだけの試着場所をささっと作ってくれる。 「絶対したほうがいいです。あとから返品交換ってできないんで」  8元のTシャツに20元のジーンズ。特に安すぎるということもない。交渉してTシャツ3枚20元にしてもらい、ジーンズは寮内で気軽にはけるハーフ丈を2本選んだ。 「Tシャツはあんまり安いと色落ち激しいから要注意ですけどね。質が悪いから最初からひと夏で捨てるつもりで、安いのを何枚か買うんです。学生はだいたいこんなもんです」  話しながら孝弘はTシャツとジーンズを広げ、どこかに穴は開いていないか、ボタンが取れていないか裾やファスナーがほつれていないかをチェックする。  その様子を三人が目を丸くして見ていた。  ポケットがほつれかけていたので指摘すると店主はぞんざいな手つきでそれを売り場に投げて戻し、新しいものを孝弘に寄越した。それをもう一度確認してOKを出す。  チェックを終えて金を払った孝弘に、店主がうすっぺらいビニール袋に買ったものを入れてくれた。 「こういう露店じゃない外資系のショッピングセンターに行けば、もっとちゃんとした服もありますよ。値段も桁違いですけど。そっちも見ますか?」 「いや、いいんだ。街中のごく普通のレベルが見たいんだ。中国人がどんなものを使っているのか知りたいから」 「お金払うから、ぼくらの頼む服を買ってもらえる?」  メーカーの二人は参考資料に日本に買って帰りたいというので了解するが、孝弘の財布にはそんなに大金は入れていない。 「あの、手持ちの人民元がそんなにないんですけど」  孝弘がいいよどむ。  祐樹が思案気に首を傾げた。 「こういう場所ではFECは使えないんだっけ。どうしたらいいかな。銀行?」 「日本円か米ドル、持ってます?」 「あるよ。使えるのかい?」  二人が持っていたのは一万円札だったので、直接店で使うには高額すぎた。相当大量に買い付けしない限りそんな金額の買い物にはならない。  仕方ないなと孝弘はちらりと露店に目をやる。とすぐにその目線に気づいた店の男が親指と人差し指をすり合わせて、合図を送ってきた。

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