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 ドア正面の真ん中に大きめの窓があり、南向きの明るい日差しが入っている。  左右の壁際に高めのパイプベッドと簡素な机と本棚、ドアの両側が作り付けの小さな衣装ロッカーと、実にシンプルな部屋だ。  荷物らしいものもほとんどなく、ベッドの下には大きなスーツケースと段ボール箱が二つ放り込んであるだけだ。  最低限のものだけでシンプルに暮らす学生の部屋だった。 「これで二人部屋?」  同室者もあまり荷物を持っていないのか、狭くてもあまり狭さを感じない。   「一人で借り上げもできるよ。一人なら一泊五ドル。二人で使うなら半額。俺は何年か留学するつもりで、切り詰めたいから二人部屋にしてるけど、やっぱ狭いし気も使うから一人で使ってる奴もけっこういるよ」  一人だとベッドと机が一つになるから、そこそこ広く使える。  長期の留学生だと一人で使う場合が多いが、孝弘は二人部屋でも平気なタイプでずっと二人部屋らしい。相手に恵まれたのもあるかもしれないと言う。  なんにもないけどどーぞと左側の机の前の木の椅子を指すので、祐樹は素直に座った。  机に出しっぱなしのテキストや辞書をぱらぱらめくって見てみる。 「まじめに勉強してるんだね、書き込みがたくさんある」 「うん、語学って上達具合がわかるから楽しいんだ」  本棚には北京語だけでなく英語のテキストや辞書、広東語の辞書なんかも並んでいる。 「いっぺんに勉強して混乱しない?」 「するする。英語のyouをヨウって読んだり、weをウェって読んだりする」 「ああ、なるほど」  本棚の上の段にはマグカップやどんぶりやコーヒーの瓶、真ん中数段にテキストやたくさんの教材付属のカセットテープ、日本のマンガやその中国語版もある。  下の段には鍋や電熱器、カップラーメンやお菓子や缶ビールが雑然と並んでいた。孝弘のふだんの生活が見えるようで微笑ましかった。 「そうだ、これ手土産」 「えー、手ぶらでいいのに。あ、カレーだ」  袋には日本のレトルトカレー数種類とインスタントみそ汁を入れてきた。この前、ホテルの日本食を喜んでいたから、こういうものがいいかと持ってきたのだ。 「高橋さん、ありがとう」  孝弘はにこりと笑って礼をいった。 「日本のスーパーも市内にあるけど、日本の商品って高くてめったに買いに行くことないからこういうレトルト食品はうれしい」  笑うと年相応なんだなと祐樹は孝弘の笑顔を見つめた。  最初に王府井で会ったとき、目つきが鋭くて仏頂面の孝弘は祐樹と同年代か年上かと思ったほどだ。  黙っていると愛想がないが、話してみたら素直ではっきりした性格がとてもつき合いやすく、一緒にいると楽しい。

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