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「ルームメイトってどんな感じ?」
「ぞぞむとは同室になって2ヶ月なんだけど、すっごい気楽でいいやつ、面白いよ。こないだカメラ貸してくれたのもあいつ」
「2ヶ月? じゃあその前は?」
「4月まではイタリア系アメリカ人と住んでて、そいつ北京語はほとんどしゃべれなかったから普段の会話は英語メインで。おかげでだいぶ英語上達した」
孝弘はベッドに乗ってあぐらをかいて壁にもたれた。いつもの動作というかんじだから、そこが定位置なのだろう。
「そいつが帰国しちゃったのと同じタイミングでぞぞむの同室も別の大学に移ったんで、寮費節約に一時的に同室になったんだ。今は香港人か、英語圏の人と同室希望を出してて、見つかったらまた部屋替えになる」
「自分たちで希望出してルームメイトを選べるんだ」
「うん、本人がOKすれば誰と一緒になってもいいよ。もめる奴はしょっちゅう同室が変わったりするな。男女同室は基本的にはだめだけど、カップル二組でこっそり同棲してる奴らもいるし」
廊下からは男女が笑いあう声が聞こえている。
「そう言えば、寮って男女別じゃないんだね」
「大体どこの大学も同じだな。でも中国人学生は男女別だし、寮の出入りもすごく厳しいよ。まあ8人部屋だから、寮に遊びに行っても二人きりになれるわけでもないけど」
「8人部屋? 学生寮が?」
「そう。部屋自体はここより広いけど、二段ベッドがぎっちり四つ入ってて、個人用のロッカーがあるだけ」
ロッカーって言ってもこのくらいと孝弘は両手で50cmほどの四角を宙に描いた。
「それだけしかないの?」
そんな小さなロッカーでは何も置けないだろう。驚く祐樹に孝弘はうなずく。
「まじで個人のスペースって自分のベッドしかないよ。ベッド脇にネット張ったり、紐でフック釣ったりしてるけど。院生になると4人部屋なんだって」
まったく知らなかった学生寮の生活を聞いて、中国人スタッフが一人暮らしなんて寂しくないですかと心配するのはそのせいかと納得した。
「なんか、別世界だなあ」
さきほど感じたことを口に出していうと、孝弘は苦笑した。
「そりゃ、駐在員はこんな狭い部屋で二人で暮らすとかありえないだろ。高橋さんは阿姨 さんは雇ってないんだ?」
阿姨とは北京語でおばさんという意味の単語だが、駐在員社会ではメイドのことをいう。
家事全般から買い物や習い事の送迎、育児のサポートまで、とくに語学のできない駐在家庭の妻や子供にとって日常生活に不可欠な存在だ。
たいていは住み込みで、週末だけ休みを取るという場合が多い。
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