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7-2
「どうしたの? 誰かと一緒じゃないの?」
「ナンパのつき添いに連れてこられた」
孝弘がカウンターの端で頬が触れそうな位置で話し込んでいる二人を指差すと、祐樹は察しよく事情を飲み込んだようだ。
「じゃあ、いまは一人?」
うなずくと祐樹は心もち身を乗り出した。
「しばらく一緒にいてくれる?」
「なにかあった?」
駐在員仲間に連れてこられたそうで、彼が目当ての女性をうまくお持ち帰りできそうなのだが、その連れが祐樹に言い寄ってきて困っていると言う。
祐樹はその気がないらしい。
なぜかほっとした。
さっきまで祐樹がいたソファ席では、その女性がまだ待っている。
「へえ。けっこうかわいいけど、好みじゃない?」
ほっとしたのを悟られたくなくて、口ではそんなことを言ってしまっている。
なんでそんなこと言ってんだ。高橋さんがその気になったらどうするんだよ。ってべつに、その気になってもいいんじゃないか。
彼女を気に入ったとして、なにか俺が困るんだろうか。いや、べつに困らない。でもなんだか嫌な気持ちになる。いらいらするような、むかむかするような。
……なんだっけ、こういうの。
けっこう酔っているのか、思考がおかしくなっている気がする。
「好みの問題じゃないよ。素性の知れない初対面の女の子を部屋に連れこんだりできないよ」
初対面なのか。そりゃそうだ。用心したほうがいいに決まっている。
しばらく二人で飲みながら様子を見ていると、彼女は戻ってこない祐樹をあきらめたのかソファ席から去って行った。
ちょうどチークタイムになって音楽がバラードに変わり、照明も切り替わって、祐樹の同僚はナンパ相手と一緒にフロアに出て抱き合って踊っている。酔っているのか上機嫌なのがここから見てもわかる。
グラスが空いて、祐樹が今度はジンリッキーを頼んだ。
「高橋さん、けっこうカクテル飲むの?」
「うん。ジンベースのカクテルが好きなんだ。甘すぎないやつ」
「それもジンベース? さっきのこれも?」
「そう。飲んでみる?」
大きなライムが入ったグラスを渡され、一口もらってみた。予想よりも飲みやすく、ライムのさわやかな香りが口の中に広がった。
「おいしい。カクテルって飲む機会ないから、どんな味か全然知らなかった」
祐樹が初心者におすすめというウォッカベースのモスコミュールを頼んでくれて、孝弘はたまにはこういうのもいいかと思う。
そういえば、なにげに間接キスだったとさっきのおすそ分けを思い出した。
何を考えてるんだか、この年になって間接キスって。けれども少し酔っているのか、気だるそうに笑う祐樹から目が離せない。
初対面以来のスーツ姿なのも、普段と違う大人っぽい感じがして孝弘を落ち着かない気分にさせる。
グラスのなかの氷がきらきらとミラーボールの光をはじくのを眺めて、気持ちを抑えた。
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