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そういわれて、ひと口、口にした途端。
「まっず!!」
祐樹は目を丸くして口元を押さえている。思わず吐き出しそうになるほど予想外の味だったはずだ。
「何、これ」
ソース味じゃないのは当然だが、しょう油でもなくオイスターソースでもなく、何ともふしぎな味つけなのだ。何を入れたらこんな珍妙な味ができ上がるのか。
見た目と味のギャップに頭がついていけないらしく、顔をしかめて驚く祐樹に、孝弘がこらえきれずに吹きだした。
「知ってたね、上野くん」
祐樹は恨みがましい目で孝弘をにらむ。
「言っただろ、俺も買ったことあるって」
「もう、教えてくれたらいいのに」
「いやいや、体験学習が大事かと」
「……厳しい先生でありがたいです」
そう言いながら、祐樹も声を上げて笑い出す。
「いや、ホント驚くよ、こんな味とは思わなかった。さすが一筋縄ではいかないね」
炒麺を手に笑いころげる祐樹に、孝弘も「だろ?」と明るく笑う。
「ほら、まだまだ先があるから」
孝弘が先を促す。
「この先は何があるのか、楽しみになってきたよ」
まだ笑いがおさまらない祐樹がぽんと孝弘の肩を叩いた。
祐樹と並んで屋台を冷やかしてそぞろ歩くのは、思っていたよりずっと楽しかった。以前にも留学生仲間と来たことがあるのにぜんぜん違う。
孝弘は祐樹の楽しそうな横顔をそっと盗み見た。人の熱気に煽られたのか、さっき爆笑したせいか、頬がすこし上気している。
「はぐれるよ、人、多いから」
「うん、ありがとう」
手を引いて引き寄せ、そのまましばらく手首を掴んで人混みを歩く。
これ、いつ離したらいいんだ。掴んでみたものの、どのタイミングで離れるべきかわからなくなり、孝弘は心ひそかにあたふたする。
中国では友人同士の距離感がとても近くて、肩を抱いたり腕を組んだりがごく当たり前の行為なので、孝弘の行動はべつだんおかしなことではない。
人ごみの中、祐樹ははぐれないためだと思っているのか、その手を振り払うこともない。
安心しきっちゃって。大丈夫かよ。隙だらけじゃねーか。いやべつに俺は隙を狙ってるってわけじゃないけど。
「あ、あれ食べよう。デザートだけど、安心だから」
すこし先の屋台を指差すタイミングで、ようやく手を離せた。
おかしなふうに心臓がドキドキしていて、孝弘はすこし戸惑う。なんだ、一体?
「湯圓 ?」
屋台に掲げられた文字を読んで、祐樹が首を傾げた。知らない単語のようで側に寄っていく。大きな鍋を掻き回していた店主がすかさず「要不要 (要るかい)?」と声を掛けた。
「これ好きなんだ。要两个 (2つ頂戴)」
受け取った発砲スチロールのカップには湯のなかに白玉団子が数個浮いている。茹でたてなのでほかほかとあたたかい。
スプーンですくって口に運ぶと、もちっとした団子の中に餡が入っている。
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