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「え? カバンを預けるの?」  祐樹の戸惑った顔に、孝弘はあっさりうなずいた。   前回、孝弘と買いに行ったドラマが途中で終わっていたので、おいしい家庭料理をお腹いっぱい食べたあと、続きのVCDを買いに行く予定だった。  その途中で通りすがりの小さな超市(チャオシー)(スーパーマーケット)に入ったのだが、祐樹はこういう店は初めてだったらしい。 「財布と貴重品があれば持って。パスポートとか持ち歩いてないよね?」 「ないよ。財布だけかな」  店の入口には受付カウンターがあり、店員がそのカウンター内にひとり立っている。その奥にはカラーボックスを重ねたような扉のないロッカーが並んでいて、いくつかにはカバンが入っていた。  孝弘が慣れた手つきで店員にカバンを渡し、店員はそれをロッカーに置くと番号札を取って孝弘に渡す。なるほどと納得して祐樹も同じように番号札をもらう。  それからようやく、金属のゲートを通って店内に入った。テーマパークの出入口にあるような、回転式のバーを押して回して入るゲートだ。  店に入るだけで、目をきょろきょろさせている祐樹に、孝弘がいたずらっぽく笑った。 「高橋さんの家の近くの外資系スーパーではこういうのないかもだけど、町のスーパーはだいたいこんな感じだよ。万引き防止というか強盗防止というか、財布しか持って入れないようになってる」 「知らなかったな。いつも同じスーパーしか行かないから」  そして、店内の品揃えも祐樹を驚かせた。  入口近くの棚には大量の粉の袋が並んでいる。しかも業務用かと思うくらいの大きさだ。日本で見るようなサイズは見当たらず、5キロ入り、10キロ入りの袋が売り場の棚にどかどかと無造作に積んである。 「え、水饺粉(シュイジャオフェン)だって。これ水餃子の皮? 何種類もあるけど」 「ああ、メーカーが違うから。薄力粉と強力粉の配合が違うんだって」 「へえ、お好み焼き粉みたいな感じかな」 「そうだと思う。好みの配合の粉を買うんだろ」 「こっちは馒头粉(マントウフェン)? 中力粉(ジョンリーフェン)? ……なんか粉がいっぱいだね」 「北京はもともと小麦文化なんだよ。米より餃子とか麺をたくさん食べる地域だから、粉から手作りが一般的だよ」 「あ、そっか。米は南方でとれるんだっけ。これ買って、家で餃子作るの?」 「そう。中国人の家に遊びに行ったら、麺打ち台が出てきて粉こねて、一緒に餃子包んだりする」 「ああ、ドラマで見たけど、本当にそういうことするんだ」 「うん。最近は冷凍水餃子も売ってるけど、やっぱ作り立てがおいしいって手作りする人も多い」  粉売り場を過ぎて、袋入りラーメンの売り場でもその種類の多さに驚いている。 「なんか見たことないパッケージがいっぱいある」  祐樹が日頃、利用しているスーパーと違って、地元民向けのスーパーにはごくごく庶民的な商品しか置いていない。 「安いの、やっぱおいしくないからおすすめできないよ」  1元もしないものから10元くらいまで、たくさん並んでいる。寮の部屋でもお湯を注ぐだけでできるので、孝弘も時々食べているが味はピンキリだった。 「鍋に入れるとよさそうなのってある?」 「まず、鍋に入れる前提なのかよ」  祐樹の料理を思い出して、孝弘は笑いながら突っ込む。  こんなやりとりが平然とできるくらいに、親しくなっていた。

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