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初めて泊った日の朝食に出てきた豚肉と豆腐とモヤシの鍋。ポン酢がうまかったな。この前、遊びに行ったときは、すきやき風の醤油味の鍋だった。
「いや、〆にいいかなーって」
「鍋ならスープ使わないんだろ。どれでも変わらないんじゃない? 袋ラーメンじゃなくて麺売り場もあるよ。あ、韓国ラーメンが麺がしっかりしてて鍋向きかも」
真っ赤なパッケージの辛ラーメンが山積みになっている。じゃあ今度試してみようと祐樹が2つ取った。隣にはカップラーメンがこれまた山のように積んである。
「カップ麺てこれしかないの? 紅焼牛肉麺 ?」
袋ラーメンの種類の豊富さに比べて、カップ麺売り場はさみしい品ぞろえだ。
「うん、まだ少ないな。去年だっけ、カップ麺売りはじめたのって」
「え? そうなの? それまでなかったってこと?」
カップ麺があって当たり前の世界に住んでいたので、祐樹はちょっと衝撃を受けた。
「ああ、でもマクドナルドも去年できたばっかりって言ってたよね」
「うん。外資系スーパーにはカップヌードルも売ってたけど、1個いくらだっけ、さっきの昼メシ代くらいするから滅多に買わなかったな」
二人でお腹いっぱい食べた食事代とカップ麺が同じ値段と知って、それにも祐樹は驚く。
「そっか、輸入品だとそんな高いんだ。これも外国人価格?」
「たぶんね。国産はそこまで高くはないよ」
カップ麺は割高なのに面子なのか手軽さが受けたのか、北京っ子に大売れしている。種類はまだ少ないがあっという間に増えるだろう。
調味料の棚では、ずらりと並んだ瓶詰めのラベルを祐樹が読んで、孝弘が発音を訂正していく。
「食堂で出てくる味はこれだったんだ」
祐樹には新たな発見がたくさんあったようで、いくつかかごに入れている。
「これ、鍋の味付けにいいかもよ」
「上野くんだって、鍋前提じゃない」
「だって高橋さんに鍋しか食わせてもらってないし」
すでに何度か祐樹の手料理をごちそうになっている。味付けや具材は毎回ちがうのでまったく問題はない。
そもそも手料理を出されて、それにケチをつけるほど孝弘は礼儀知らずでもなかった。
「でも、どれもうまかった。鍋ってすげーって認識を改めたもん」
孝弘の言葉に祐樹は照れたのか、めずらしく困ったような顔で笑う。
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