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第11章 アルバイトのお誘い
祐樹と仕事をしたいという望みは、意外な形でかなえられた。
北京事務所でアルバイトをしないかと安藤に誘われたのは、まもなく夏休みに入る6月下旬のことだった。学年末試験もあとすこしで終了し、7月中旬から大学は6週間の長い夏休みに入る。
卒業シーズンなので寮内の留学生はがくんと減るが、夏休みだけの短期留学生は一気に増える時期だ。2週間から4週間ほどの期間でやってくる各国からの短期留学生は何となく華やかだ。旅行気分の明るさというか元気さがある。
通常の授業はないが、むしろ短期留学生向けに太極拳や胡弓や書道などの体験講座などは数多く開催されて、それは長期留学生も参加できた。
去年はいくつかの講座に出てわりと楽しかった。今年も何か参加してみようかと予定表を見ていたら、祐樹の上司の安藤から寮に電話がかかってきた。
事務所で雇っている中国人インターンが事情により2ヶ月ほど休むことになり、代わりを探しているという。中国語が話せれば日本人でも構わないということで夏休みの孝弘に声がかかったのだ。
内容を聞いたら、週3日ほどの出勤で書類の整理や下訳などが主な仕事だという。日本企業だから時給もよかったので孝弘は二つ返事で引き受けた。
なにより祐樹の職場に興味があったし、新しい経験は単純に楽しそうだった。
「孝弘、アルバイトいつから?」
「来週から8月末まで」
ぞぞむとダンジョンを攻略しながら孝弘は答えた。
試験が終わった途端、早々に一時帰国した留学生の部屋でゲームをしていた。ここに共用の冷蔵庫を置いているから鍵を預かっていて、テレビもゲームも自由に使っていいと許可をもらってある。
「日系企業のバイトなんていいよな」
「うん。企業でバイトすんの初めてだから楽しみ。高橋さんの会社だし」
「つーか、高橋さん、ずいぶん気に入ってるな」
「そう見える?」
「孝弘ってあんま人のこと構わないのに、あの人とはなんか仲よさげじゃん」
「うん。なんて言うんだろ、あの人面白いよ、大人なのに子供みたいな時もあって、話してると楽しい」
「そっか。でもじゃあ、今年の旅行は来ないのか」
「行かねえ。ぞぞむの旅行、過酷だからなー」
「いや、今年は去年ほどじゃないって。あれは予想してたより大変だった」
「そんな旅に留学4ヶ月目の俺を誘うってひどくね?」
「まーまー。でも面白かっただろ?」
「まあね。何かと勉強にはなった。バックパッカー初めてだったし」
リュック一つ背負って、ざっくりと行程を決めただけで新疆ウイグル族自治区まで旅に出た。
到着予定もわからないし、予約のしようもないから現地に行ってその日に泊まる宿を探すしかないのだが、そんな旅は初めてだったので正直言って驚いた。
「冬に行くよりは楽だっただろ?」
「どうだろ? 暑くて死にかけた気もするけど」
昼間の気温は40度を軽く超えて、人々も犬も家畜も死んだように日陰で伸びていた。昼休みは4時間ほどあって、夕方になってようやく午後の仕事が始まるといった具合だった。
「次は和田 まで行きたいよな。来年どうよ?」
「遠慮しとく。で、今年はどこ行くって?」
「北京から列車でウランバートルまで」
「モンゴルか。羊飼いになって帰ってこないってことになんなよ」
「俺は羊飼いよりもモンゴル相撲の力士になりたい」
「無理だろ、その体格で」
ぞぞむはスレンダーマッチョなのだ。
二人で爆笑して、ダンジョン攻略は失敗した。
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