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第14章 自覚と嫉妬

 日本から友人が来るからと、祐樹が二日間の夏休みを申請したのは、孝弘があの電話を聞いてから数日後のことだった。  そのタイミングに、もしかしてと思わずにはいられない。  あのときの電話の相手が会いに来るんじゃないか?  ずいぶんと親しげな感じだった。付き合っていたのなら、それも当然だろう。でも別れ話をしていたようだったのに。  いや、高橋さんは断っていたけど、相手はそれに同意はしていなかったんだっけ? いやいや、彼女と結婚をするかしないかを相談していたような会話だったか?   結婚を勧めていたのは覚えている。  あれ、別れ話はどうなったんだっけ?  孝弘も混乱していたせいか、電話で相手の発言が聞こえなかったせいか、いまいち会話の内容が思い出せない。  でも声の調子や話し方で、祐樹が相手を嫌いなわけではないことはわかっていた。  結局、あの日は動揺して祐樹の顔をまともに見ることもできず、食後すぐに頭が痛いと嘘をついて逃げるように寮に帰った。  いや、実際逃げたのだ。  あのまま部屋にいたら、絶対おかしなことを口走っていたと思う。そのくらいにはあの電話は衝撃的だった。  そして、突然自覚した祐樹への思いも、どう取り扱えばいいのか、まったくわからなかった。  いまもわからないままだ。    火曜日はアルバイトだったが、祐樹は出払っていて一日社内にはおらず、孝弘はやきもきしながら仕事をこなした。会えなくてほっとしたが、同じくらい落胆もしていた。  会いたいのか会いたくないのか、自分でもはっきりしない。  こんな訳のわからない状態になるのは初めてで、一体どうしたことかと気持ちが常に波立っている状態だ。  自分の気持ちがこんなにままならないものだとは。  水曜木曜と二日休んだ祐樹が出勤した金曜日、孝弘はやけに緊張しながら朝の挨拶をした。祐樹を一目みて、ああ、やっぱり会ったんだなとわかった。  明らかに憂いを帯びた横顔だったから。けれども表情は荒れてはおらず、少なくとも喧嘩別れをしたとか、修羅場を演じたとかいう雰囲気ではなかった。  それにほっとしつつも、もやもやした気分は残る。  どんな二日間を過ごしたのか、恋人同士の最後の逢瀬だったのなら、つまりそういうことだろう。  でもどんな時間を過ごしたとしても、祐樹は表情に出したりはしないのかもしれない。いつも穏やかに笑って楽し気にしていた祐樹だけれど、実はそれは計算された顔なんじゃないのか。  先日の、電話の日から孝弘はそう思うようになっていた。  普段通りにランチを誘われて、いい断り文句も思いつかず、地下の社員食堂に向かった。安いのだが正直いっておいしくはない。  時間があれば外に食べに行くのだが、今日は祐樹が午後イチで打ち合わせが入っている。 「はじめは、なんで料金が二種類あるのかわからなかったな。てっきり量が違うんだと思ってたよ」  ランチは中国人料金と外国人料金が表示されている。王府井で孝弘に説明されるまで、祐樹は二重価格の意味を理解していなかったのだ。  王府井での出来事が、ずいぶんと以前に感じた。

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