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 時刻表がまったくあてにならないのだ。  一日に一本しかない列車なので、予定時刻にはまず来ないとわかっていても、万が一にも定刻に着いては困るので一応駅に行く。  しかし北京から遠ざかるほど遅れがひどくなるので、西へ行けば行くほど定刻には来ない。数時間遅れは当り前という状態で、途中乗車駅ではひたすら列車を待つ。  食料と水の携帯は欠かせないとつくづく実感する旅でもあった。 「数時間? それは確かに大変だね。これは何してるの?」  ゴビ灘と呼ばれる何もない砂漠の真ん中に深緑の長い車両が停まって、人々がそこらへんで夕涼みしているような写真を指す。 「列車が停まったから、みんな外に出てるんだ。車内が暑いから」 「停まる? こんな砂漠の中で? 駅じゃないのに?」 「うん。理由はわからないけど、こうやって突然停まって、そのうち走り出す。アナウンスとかないから、何でかわからないけど、とにかく仕方ないって感じで待ってる」  何時間でもそうして待つしかないと聞いて、祐樹は目を丸くする。 「えー、びっくり。中国人ってすごく文句言いそうなのに、でも待つんだ」 「ほかにできることがないからね。アナウンスはないけど、動きそうな時はちゃんと声はかけてくれるよ。もうすぐ出るから乗れよーって感じで」 「おおらかだなあ。でも、それはどんどん遅れていくはずだね」  ぞぞむは事前にきちんとそのあたりを調べてきていて、到着時間の遅れのことも、座席は乗ってから車掌にかけ合って(つまり賄賂の交渉次第で)、寝台席を買うのだということも孝弘に教えてくれて、まったくのんびり構えていた。  焦っても心配しても仕方ないし、そもそも予定があってないような旅だ。  まあそのうち来るだろと二人は簡素な駅舎でほかの乗客たちとトランプや中国将棋をしたり、ウイグル語を教えてもらったりとマイペースに過ごした。  孝弘は初めての長期の国内旅行だったし、バックパッカースタイルの旅も初めてだったので、かなり面食らうことばかりだった。  この旅行で孝弘のメンタルはかなり鍛えられたと思う。  終点の乌鲁木齐(ウルムチ)から先は列車は走っておらず、長距離バスに乗りかえて、喀什(クーシェ)(カシュガル)まで足を伸ばした。  ぞぞむの目的はウイグル族の伝統的な模様の絨毯や刺繍の素晴らしい壁掛けや帽子、装飾の美しいナイフなどの手工芸品で、どの町に行っても必ずバザールに足を運んでいた。  孝弘は気が向いたらぞぞむのバザールめぐりにつき合って、あとはドミトリーで知り合った各国の旅行者たちとモスクや遺跡めぐりをして、おそらく世界一気軽に展示されている(台に置かれているだけ)ミイラを見たり、ブドウ畑を見にいって新疆ワインを飲んだりと、のんびりと夏の休暇を満喫した。

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