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グラスをしばらく手の中で転がして、決心する。
窓のそと、ぽっかり浮かぶ満月を祐樹が見ている。
「高橋さん」
カーテンを閉めた祐樹の前に立つと、孝弘は手を伸ばして祐樹の両手を握った。
祐樹を真っ直ぐに見て言った。
「抱きたい」
ストレートな言葉に祐樹は瞬きした。
予想していなかったようで、ぽかんと孝弘を見返す。
両腕を回して抱きすくめるとびくっと体を揺らした。
合せた胸の鼓動が速い。
動揺が伝わってくるが、耳元でささやいた。
「欲しい、だめ?」
祐樹はしばらく黙っていた。
その間にもどくどくと心臓は脈打ち、緊張がどんどん高まっていく。
本気で抵抗されたら、もちろん押切るつもりはない。
「抱いても、上野くんのものにはならないよ」
冷静な声が聞こえた。
ああ、断る気だなとわかった。
そりゃそうだ。いきなり抱きたいなんて言われて承知するわけがない。
「それはわかってる」
賭けてたんだとつぶやいた。
寝たふりしてて、きょう、安藤さんが連れて帰ってくれたらこれでもう会わない。
でも、もし高橋さんが部屋に入れてくれたら、欲しいっていう。
そう決めてた。
孝弘の告白に、祐樹はそっかと返した。
「いいよ。しよう」
祐樹の返事に、孝弘の体がぴくりと震えた。
いま、何て言った?
予想外の返事が聞こえて、祐樹の顔を覗きこむ。
言い出したのは自分だけど、まさかOKされるとは思っていなかった。いや絶対押しのけられると予想していた。
ぽかんとした孝弘に祐樹はおかしそうに微笑んだ。
「あのさ、俺、本気だよ」
「知ってる」
祐樹がそっと唇を押しつけた。
一瞬で離れて、孝弘を見つめた。
孝弘は喜びよりも困惑を感じた。
どうして祐樹がいいよなんて言ってくれるのか。
「俺、高橋さんに無理難題を押しつけてる?」
子供が駄々をこねるから根負けして、言うこと聞いてあげよう的な?
「どうかな……、いや、そうでもないよ」
「ほんとに?」
「嫌だったら、そう言うよ。知ってるでしょ」
確かにそうだ。嫌なことはきっぱり断る人だった。
もういいか。お互い酔ってることにしても。
うんとうなずいて、孝弘は素直になることにした。
「どうしたらいいか、教えてくれる?」
男を抱くのは初めてだ。
正直にそう言うと、祐樹はすこしためらったが、ちょっと待っててといい部屋から出て行った。
途端に頭の中はパニックになった。
どうしよう、俺、まじですんの?
え、高橋さんとセックス?
したいけど、ちゃんとできんの?
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