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第22章 暗闇のキス
がくん、と一瞬大きく揺れて、動きが止まった。
夕食後、部屋に戻ろうと乗ったエレベーターはそれきり沈黙した。
「停電?」
「みたいですね。高橋さん、大丈夫?」
ごんという音がしたから心配したのだろう。
「平気。よろけてかばんぶつけただけ」
「よかった。どこも痛くないですか?」
停電などよくあることなので、二人ともあわてることはない。
でも祐樹は別の意味で緊張していた。
こんな小さな箱の中で、孝弘と二人きり。
自意識過剰だ、孝弘はきっとなんとも思ってない。
そう言い聞かせて、薄くなった気がする酸素を意識して吸い込む。
「ホテルだから、すぐに復旧すると思いますよ」
「そうだね」
早く復旧して欲しいと切実に思う。
真っ暗になった箱の中で、孝弘の大きな手が手探りで祐樹を探しだし、そうっと抱き寄せられた。やさしい拘束にぴくっと体をこわばらせたのが伝わったはずだが、孝弘は身を離そうとはしなかった。
「ちょっと不安なので、こうしていてください」
孝弘がねだる声でお願いしてくる。下手に出られると断りにくい。
そんな言い方はずるい、不安なんてこれっぽっちも感じていないくせに。
わかっていたが寄り添った体温はやさしくて、ためらいつつもうなずくとかすかに笑う気配がした。
抱き寄せられた髪にそっとキスが落ちる。
心臓がとくん、と音をたてた。
祐樹だけに聞こえる音量だったが、これ以上密着したら孝弘にも聞こえてしまいそうだ。
二日前、孝弘の部屋でキスされて以来、孝弘は二人のときには気持ちを隠さなくなった。
技術部門のスタッフが帰国したため、祐樹と青木の三人で行動することになり、祐樹と二人になることがこれまでよりも増えていた。
そう長い時間ではないが、わずかな隙を逃さず、ごく自然な動作で肩や髪や頬に触れてくる。振り払うほどべたべたするわけではなく、さらりと触れて優しい目で祐樹を見る。
困惑する祐樹に孝弘はあまく微笑みかけてくる。
好きだと言葉にはしないが、触れる手や目線に気持ちが込められていた。
それを読み取れないほど鈍くはないが、とっくに忘れられていたと思っていた祐樹は、ひたすら戸惑っていた。
五年前のことを責めるわけでもなく、ただ黙って態度で気持ちを告白してくる。
こんなふうにあからさまに好意を見せてくることは五年前にはなかったことで、あまい空気を漂わせる孝弘にどう対応していいかわからない。
いまもやわらかく抱きしめられて、それを不快に思わない自分もふがいない。
拒絶するならするではっきりしないと。
そう思うけれど、傷つけたに違いない前回のことを考えると、どうにか穏便にことを運びたいとも思う。
暗闇のなか祐樹はじっと体を緊張させたまま、何も言えずに黙り込んだ。
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