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22-3
電気が復旧して箱の中が明るくなり、わずかな振動とともにエレベーターが動き出しても離れることができなかった。
なにも考えられないまま口づけを続けて、ドアが開いてからようやく身を離した。
孝弘は熱く潤んだ目で祐樹を睨むように見て、ぐっと手首をつかむと、まっすぐに廊下へ踏み出した。
くらくらする頭で、祐樹は引きずられるようについて行く。
部屋に入るやいなや、孝弘はもどかしそうに祐樹のジャケットを脱がせ始めた。驚いて、さすがに抵抗する。
「上野くん、ちょっと待って」
「嫌だ。煽ったのはそっちだろ」
ここまでは覚悟していなかった、どうしよう。いやいや、あんなキスまでしといて今さらそれは通らないよな。
戸惑う頭のすみで、べつに構わないだろうという声もする。
一度は寝たことのある仲で、祐樹は誰かに操立てする必要があるわけでもない。かまととぶって焦らして楽しむような趣味もない。
でもここで流されてしまっていいものかは迷う。まだ出張は続くのに。
孝弘が何を考えているかも不確かで、どうしようかとめまぐるしく思考は混乱する。
これ一度きりならそれもありか?
お互い欲情していて目の前の相手を欲しているのだから。
あれこれ乱れる思考のなか、手際よくシャツのボタンがすべて外される。
「上野くん」
困惑しきった声で呼ぶと、孝弘はまっすぐ祐樹の眼を見て欲情をあからさまに表明する。
「欲しい。今すぐ」
気持ちをごまかさないその潔さに、祐樹は何を言っても無駄だと悟る。
何よりここで拒否するのは卑怯な気がした。
覚悟を決めて、体の力を抜いた。
孝弘がそれに気づいて、やわらかく抱き寄せながら耳元でささやく。
「触りたい。無理やり抱いたりしないから触らせて。高橋さんだって反応してるだろ」
抱きたいと言われても了承するつもりだったが、孝弘はそうは言わなかった。
覚悟を決めたつもりだったけれど、思わずほっとする。
抱かれるのが嫌なんじゃない。
歯止めが利かなくなりそうで怖かっただけだ。
祐樹がうなずくと、孝弘は一切迷いのない手つきで祐樹の服をすべて脱がせ、ベッドに上がらせた。
射貫くような強い視線にさらされて、頬が熱くなる。
自分もさっさと脱いでしまうとするりと横にすべりこんできて、ぎゅっと抱き寄せられる。
人肌のあたたかさに、不覚にも気持ちよさがこみ上げた。裸で抱き合って、気持ちが高まってほぐされるのをはっきりと感じた。
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