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第25章 追憶の夜 

 セックスのあとのビールってなんでこんなに美味いんだろう。  分厚い枕を背もたれに使って、並んで冷たいビールを飲む。  火照りの残った体にしみこむ気がする。  乱れきった姿を見せあった直後なので、さすがに照れが残っていた。気だるい体を枕に預けているが、左側にいる孝弘の顔を見ることができない。  孝弘は余韻を愉しむように手を絡めたり、祐樹の髪をなでたり口づけたりしている。先ほどまでよりも、いっそうあまくなった仕草に祐樹の心は罪悪感でいっぱいになる。  このまま何も言わないで、部屋に戻れるだろうか。  ただ一晩の情事として、それだけで終わってくれたらと祐樹は願った。  しかし、そんな祐樹の心のうちなど知らない孝弘が、ぼそりとつぶやいた。 「返事、してくれないんですか?」 「……なんで、ここで敬語」 「いやなんか、ちょっと不好意思(プハオイース)(恥ずかしい)というか、非常害羞(フェイチャンハイシュー)(めっちゃ照れる)というか、まだまだ修行不足なもんで」  北京語を口にするほど孝弘も照れていると知ってほっとした。  あんな口説き文句と手管を見せつけられて、実はかなり動揺していたのだ。  それに、今から告げる言葉を思うと、どんどん気持ちが落ちていく。 「俺とつき合おうよ、ほんとは好きだろ?」  恋人つなぎに手をつないだまま、孝弘が顔を覗きこんでくる。  祐樹はまともに視線を合わせることができず、うつむいて顔をそらした。  自分はまた孝弘を傷つけるのだろうか。  なるべく平坦な口調を心がけて声を出す。 「上野くんのことは、人として好きだよ。性格もよくて仕事もできて尊敬してる。でも、つき合うとかは現実的には考えられない」  つないでいた手をそっと引き抜く。  うつむいたまま、祐樹は平然と聞こえるようにと願いながら、言葉をつづけた。 「この出張が終わったら、実際会えなくなるわけだし。おれはそばにいない人と恋愛できるほど強くないから、ごめんね」  言いながら、逃げを打ったのだとわかっていた。  孝弘は手の中で空になったビールの缶を転がしながら黙って聞いている。  隣にいる孝弘の顔を見られないので、どんな反応なのかさっぱりつかめない。でもここでやめるわけにはいかなかった。 「やめておこう? 上野くんにはもっとちゃんとした人がいいと思う」 「ちゃんとした人って何?」    質問されて、一瞬答えに迷った祐樹はなんとか言葉を押し出した。 「…だから…結婚できる相手、というか、……女の子?」 「たった今抱かれておいて、そんなこと言うんだ」  ぐっと祐樹がつまったのを見て、孝弘が眇めた目で責める。

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