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帰りの道はひどい有様だった。
行きに通ってきた山にへばりつくように作られていた道路は、山からの土砂でまだ半ば以上埋もれた状態のままだった。
田舎の道路の復旧に重機などはなくひたすら人海戦術だ。近隣の集落から駆り出されたたくさんの人々で復旧作業は行われていた。
日頃は農作業に使っているのだろう鍬やスコップで土砂を掘り出しては手押し車で運んでいる。
気の遠くなるような光景だが、ここではこれが当たり前だった。
かろうじて車が通れる幅に細く通された道を、慎重なハンドルさばきで運転手が通り抜ける。何台もの車が数珠つなぎになって渋滞しており、その合間を作業する人々が縫って歩いている。
がくん、と車が急に揺れて、止まった。
エンジンをかけてもタイヤが空回りする音が聞こえるだけだ。
運転手がちっと舌打ちして、車を降りていく。
孝弘と祐樹も様子を見に降りる。
「あー、これはダメだ」
タイヤを見ると完全にぬかるみにはまっていた。
運転手がそこらへんから板を持ってきてタイヤのしたに突っ込み、手伝ってくれと周囲の人々に声をかける。
泥だらけになって土砂を運んでいた男たちがわらわらと寄ってくる。
「旦那たちは下がってな。泥が跳ねるから。あ、それとも乗るかい?」
「いや、こっちでいいよ」
乗ればそれだけ重くなるから、押す人たちの負担になる。
孝弘と祐樹は素直に道路わきまで下がった。
「いいかー、せーのっ」
数人がかりで後ろから押しがけする。
エンジンのきゅるきゅるという音が響くが、車は動く気配もない。
「これは、無理だな」
車を押していた男たちがさら周りの人にも声をかけて一緒に押してもらい、どうにかぬかるみを抜けられそうになったとき、
「あぶないっ」
空気を切り裂く悲鳴と同時に、頭上からものすごい音がした。
咄嗟に上を見ようとした祐樹は横から突き飛ばされた。
後ろにふっとんだ勢いのまま、背中を強打し一瞬息が止まる。
そこへ上から土砂が降ってきた。
どどどっという地響きに、怒声と悲鳴がかぶさる。
男女の怒声、ゴロゴロガラガラという辺りに轟く不穏な音。
反射的に体を丸め、頭を守ろうとする。
土砂崩れが起きたのだとわかったが、土埃で目を開けられない。
「上野くんっ、孝弘っ」
背中の痛みをこらえて大声で呼んでみたが、返事は聞こえない。
孝弘はどうなった?
薄目を開けても何も見えず、周りは怒鳴り声が響いていた。
早口で聞き取れない。
どっちに動けばいいのか、周囲では多くの人が右往左往する気配がする。
「上野くんっ、大丈夫かっ?」
もう一度呼んでみたが、返事はない。
その時、すぐ近くでガンという音がして、左腕に激痛が走り、祐樹の意識はそこで途切れた。
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