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第27章 入院

 目が覚めて、最初に思ったのは熱い、だった。  左腕がやけに熱い。  ぼんやり首を回すと、包帯に包まれた腕が見えた。  え?なんだ? 「高橋、気がついたか?」  正面に青木の顔が見えた。  状況がつかめず、瞬きする。 「あ、なに…?」  上から覗きこむ青木はほっとした顔をした。 「土砂崩れに巻き込まれたんだよ。わかるか? ここは病院だ」  意識を失う寸前の光景が一瞬でよみがえった。  祐樹を突き飛ばして土砂の直撃から守ったのは孝弘だった。  はっと体を起こす。 「あっ、いった……」  あちこちに痛みが走って声もなく呻いていると、青木が背中に腕をいれて起こしてくれた。 「大丈夫か? 急に動くと傷が開くぞ」 「はい、すみません」  体を起こすと、スーツもシャツも左肩から先がなかった。処置のために袖を切り取ったようだ。 「腕が切れていたから縫ったんだ。折れてはいないよ。麻酔が切れたらしばらく痛むだろうが、じきによくなるらしい。痕が残らないといいけどな」  青木の言葉に祐樹はうなずいた。骨折してないのは幸いだ。  女の子じゃあるまいし、傷痕くらい大したことではない。 「それより、上野くんは?」 「まだ意識が戻らない。ちょっと頭を打ったみたいだから、心配してるんだが」  孝弘は別の病室にいるそうだ。  祐樹がいるのは3人部屋で、ベットに2人が寝ており、付添人か見舞い客なのかそれぞれ数人がついていた。  日本語で話している外国人をじろじろ遠慮のない目で眺めている。 「それにしても、携帯電話のある時代でよかったよ」  青木はほっとした顔をする。  車に乗っていて無事だった運転手が機転を利かせてくれ、ポケットに入れていた祐樹の携帯を探して、青木に連絡をつけてくれたのだ。  ここ3年ほどのあいだに中国でも携帯電話はかなり普及してきていた。  有線の電話は電話線の設置に手間も金もかかるのでいまだに家に電話を持たない人がほとんどだが、手軽に持ててどこでも使える携帯電話はこの広い中国で急速に普及した。  出張中の祐樹ももちろん持っており、そのおかげで事故直後に青木に連絡がついたのだった。外国人が事故に巻き込まれたということで青木の働きかけで市の外事弁公室が動いたらしく、病院への搬送もかなりスムーズに行われた。 「すみません、お世話をおかけして」 「いいよ、そんなの。一歩間違えればもっとひどいことになっていたんだし、このくらいで済んでほんとによかったよ」  あの土砂崩れで30人ほどが生き埋めになり、かろうじて死者は出なかったものの、なかには頭蓋骨骨折の重傷者もいたと聞いて、祐樹は今ごろになって体を震わせた。

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