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青木と一緒に孝弘の様子を見に行くと、孝弘は頭に包帯を巻かれて眠っていた。
そこは四人部屋でたいそう騒がしかったが、孝弘の表情は穏やかですこし安心する。
でも寝顔を見ているうちに、祐樹の心臓は痛いくらいどくどくし始めた。
まさかこのまま目覚めないなんてことはないよな?
大丈夫だ、ちょっと頭を打っただけって言っていた。
でも本当にちょっとだったのか?
そんなの誰にもわからない。
もしかしたら、打ちどころが悪かったのかもしれない。
祐樹は悪いほうへと引っ張られる意識を、どうにか断ち切った。
考えるな、きっともうすぐ目を覚ます。
「レントゲンとMRIは撮ってもらった。そんなに強く打ったようでもなかったんだが、まだ意識が戻らなくて。そのうち目を覚ますと思うんだが」
顔色の悪い祐樹を気遣ってか、青木は気楽そうな口ぶりで話した。
検査結果が出たところらしく、医師がやってきたので青木とともに話を聞いた。
通訳の孝弘がいないので、祐樹が通訳することになったが、なまりの強い医師の言葉は聞き取りにくく、まして病院という非日常の場面での会話は不慣れなため何度も聞き返した。
幸い、医師は英語がそこそこ話せたので、英語交じりの会話でMRI検査では特に異常はないこと、打った場所がすこし切れていたので縫合したが、今のところ大したことはないと知って体から力が抜けた。
点滴を打たれている孝弘は、ぴくりとも動かない。
祐樹の怪我の説明もあり、二人ともとりあえず一晩、様子を見るというので、祐樹は一度、病室に戻ることにする。
「俺はこのまま食べ物と服、買ってくるから、高橋は病室で待ってろ。中国の病院では食事出ないんだってな。なにが食べたい?」
「よくわかりませんけど、パンとかカップ麺かな……」
胸がいっぱいでお腹が空いたかどうかもよくわからない。
病室に置いていても大丈夫そうなものを頼んだ。
「そうだよな。まあとりあえず着替えとか洗面用具もいるよな」
青木がまだ泥だらけの祐樹を見て、買い物に出て行った。
がしがし払ってみたものの頭から土砂をかぶったので、ひどい状態のままだった。シャワーを浴びたいと思う。腕を縫っただけだから、多分平気だろう。
看護師にかけあってシャワーの許可をもらい、ベッドに座って青木が戻ってくるのを待つ。
頭に浮かぶのは孝弘の寝顔だ。
穏やかに眠っていて安心したはずなのに、心のなかが波立っていた。
穏やかな寝顔?
穏やか…、ってつまり、安らかな寝顔?
いや、なに考えてるんだ。縁起でもない。
大丈夫だ、そんなことは起きない。
意識して孝弘の笑顔を思い浮かべた。
ふだん、ちょっと皮肉っぽい笑い方をするが、たまに見せる子供っぽい笑顔が好きだった。
いたずらを仕掛けてきたときの、すました笑顔も。
祐樹を口説くときの照れたような笑顔も、やさしくあまい微笑みも。
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