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第29章 安藤との再会

 8時前に朝食を買いこんだ青木が病室にやってきた。 「病院前にいっぱい露店あったよ。適当に買ったけど大丈夫かな」  バナナと水とパンとカップ麺と熱々の生煎包を渡された。露店の前で、青木が迷っている姿が見えるようだ。 「いえ、ありがとうございます」 「上野くんは?」 「まだ意識が戻らなくて。さっき様子を見て来たんですけど」 「そうか。心配だな」  思案気な顔の青木が朝食を勧め、祐樹は一口サイズの焼き包子を食べながら今後の話をした。 「青木さんは先に北京に戻りますよね?」  祐樹の抜糸を悠長に待ってはいられないだろう。 「多分そうなるな。昼までには東京から連絡来るだろ。もしかしたら、北京に戻らずに上海経由でそのまま帰国になるかもしれん。今回の出張報告は厄介だな」  こめかみをぐりぐりと揉んで、青木は口をへの字にする。 「すみません、迷惑かけて」  祐樹は申し訳なく思って、首をすくめた。 「いや、高橋がそう思う必要はないよ。工場の視察は東京からの指示だったんだし、その怪我も不運な事故だろ」 「まあ、そうですけどね」 「ひとまず緒方部長からは応援を寄越すと言われたんだが」 「応援?」   祐樹が首を傾げたところで、病室に男がひとり入ってきた。 「安藤さん!」  祐樹が声を上げ、青木立ちあがる。 「おー、高橋(ガオチャオ)。なんだ、元気そうじゃないか。土砂崩れに巻き込まれて、キズモノになったと聞いたけど、相変わらず美人だな。半年ぶりか? もっとだっけ?」  久しぶりに会う安藤は、かなり恰幅がよくなっていた。変わらない遠慮ないもの言いに思わず笑ってしまう。 祐樹の初めての北京研修の面倒を見てくれたのが安藤で、祐樹とはそれ以来のつき合いだ。 「お久しぶりです! じゃあ応援って、安藤さんですか?」 「なんだ、応援て。ああ、部長からそう聞いてたのか? 緒方部長が様子見に行ってくれって電話よこしたんだよ。青木もお疲れさん。今回はほんと大変だったんだってな」  現在、上海駐在中の安藤はこの出張の顛末を聞いているらしい。 「で、上野(シャンイエ)が通訳についてたんだろ。あいつ、どうした? 久しぶりの再会だし、念願の高橋との仕事で張り切ってたんじゃないか?」  ふしぎなセリフを聞いた気がしたが、祐樹はひとまず現状を告げた。 「それがまだ、意識が戻らなくて」  それを聞いた安藤が眉を寄せる。 「事故が起きたのが昨日の昼ごろだったっけ? それから一度も目覚めてないのか?」  時計を見ると、もう9時になろうとしていた。 「MRIとレントゲンでは異常はなかったんですけど、頭部を切ってたのでちょっと縫いました。その時の麻酔はもう醒めてるはずなんですけど、意識が戻らないんですよ」  青木の説明に、安藤は思案顔でうなずいた。 「そうか。まあ様子見るしかないか。中国の麻酔が効きすぎてるのかもな。高橋はもう大丈夫なのか?」 「はい。夜は炎症からけっこう熱が出ましたけど、すこし下がりました。一応、今日退院ですけど、このまま上野くんに付き添うつもりです」 「そうだな、付添人がいるよな。それに意識が戻るまでは心配だしな」  青木の携帯電話が鳴った。東京からだろうか、話しながら病室から出て行くのを見送った。

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